「イギリス」「ロンドン」と聞いてまずぱっと思い浮かぶ典型的なイメージというと、「ビッグベン」「タワーブリッジ」「ロイヤルファミリー」「バッキンガム宮殿と衛兵」「赤いダブルデッカーバス」「ハロッズ」などなど。そしてそういうところで金髪碧眼のイギリス人紳士淑女がアフタヌーンティー・・ってところだろうか。
スポーツ好きな人はフットボールチームだったり、音楽好きな人はビートルズだローリングストーンズだ、色んなミュージシャンもくっついてきたりするかもしれない。
観光客として初めてロンドンに来たのはもうずいぶん前だけれど、やはり印象的だったのがそんなイメージを打ち砕くかのような、ロンドンの多様性だったかもしれない。まず入国審査官からして、ターバン巻いたおっちゃんや、9・11後でピリピリしていた当時のアメリカだったら、見た目だけで警戒リストに入れられてしまいそうな中東系の人達で、私のパスポートにスタンプを押してくれたのが強く印象に残っている。
バスやチューブに乗れば、いわゆる「アングロサクソン」系のイギリス人の割合のほうが、ぐっと少ないことのほうが多い。子供の小学校のクラスメイトの女の子達の場合、見た目が東アジア人なのはわが子ぐらいで、あとはインド人が2人、カリビアン系が1人。残りはみんな白人なんだけれど、100%アングロサクソンだという子は多分1人ぐらいしかいない(男の子は全員知らないのでわからないけど)。
みんな少なくとも片方の親がヨーロッパの別の国出身だったり、他の文化背景を持っていたりして、バイリンガル、マルチリンガルの子も随分多い。カリフォルニアの小学校に通っていた時より、多様性国際性は驚くほどあると思う。
そんな移民の街ロンドン、その中には先日大量のベトナム人が亡くなってニュースになったような、コンテナに隠れて命がけで海峡を渡って来る人達もいる。不法移民ではないけれど、他のあまり裕福ではないEU諸国から出稼ぎにやって来る人達もいる。斡旋業者にお金を巻き上げられたり、あてにしていた仕事がなくなって、路頭に迷い帰るに帰れなくなる人もいるらしい(わが町でも、そういう境遇らしいポーランド人が路上で寝泊まりをはじめ、彼を何とか助けられないかと話題になったことがあった)。公的には存在していないことになっているため、政府のレーダーにもひっかからず、ロンドンに暮らしていても、どの統計にも表れない人達も随分いるそうだ。
同じロンドンにいても、普段私達が関わることは無いような様々な人達にインタビューをした興味深い本がこちら。
This Is London: Life and Death in the World City
- 作者:Ben Judah
- 出版社/メーカー: Pan Macmillan
- 発売日: 2017/09/01
- メディア: ペーパーバック
ルーマニアの貧しい村からやってきて、物乞いをし、ハイドパーク近くにある地下通路で寝泊まりする人達。イギリス人が出ていき、移民が溢れる街で警官になった、ナイジェリア移民の話。アラブのお金持ちのメイドとしてロンドンにやってきて、隙をついてそこから逃げ出すフィリピン人のメイドさん達、そしてそんな彼女たちを匿う駆け込み寺的場所を提供している女性の話。ホワイトシティのギャングになった少年、薬の売人、売春婦・・。
著者はロシア語も話せるとかで、時にはタコ部屋にウクライナ人のふりをして潜入してみたり、地下通路でルーマニア人達と一緒に寝泊まりしてみたり、日陰の存在であるような人達の顔写真や生活ぶりもばっちり写真にとって、本に載せている。色んな環境や人の懐にぐいっと入っていける人のようだ。すごいな。
不法移民に限らず、ロンドン地下鉄の清掃員として、時に人身事故の処理もする人、病院の介護人、イスラム教の納棺師、そして結婚するまで何もしてはいけないと親に行動を制限され、鳥かご状態でナイツブリッジで日々を過ごすアラブのお姫様の話などなど、まさに"The stories you never hear. The people you never see." と本の表紙に書かれているようなストーリーがどんどん語られる。
20人以上の様々な人の「物語」を読む中で、一貫して印象に残ったのは、やはりロンドンの様々な地域からいわゆる「コックニー」と呼ばれる生粋のロンドンっ子が消え(エセックスなど郊外に引っ越していってしまうらしい)、街にあったパブは消え、モスクやケバブ屋、移民の店が立ち並ぶ場所になっていく・・・という場所の多いこと。
そして気になったのが、移民の国アメリカにもこういう話は色々あるとは思うが、そんな話の中で時に垣間見える、未来への希望といったものが、ここではあまり感じられなかったこと。
これは結局イギリスという国が100%移民で成り立っている国というわけではない所から来ているのかもしれない。本当に出ていくしかない貧しい村から経済機会を求めてやってきて、それなりの生活を送れるようになったとしても、何かアメリカンドリームをつかんだ的な達成感や、この国に対する希望や夢や憧れ、そしてチャンスをつかんで一攫千金するぞ!といった感じのある意味あっけらかんとしたオプティズムは全くもって出てこない。
とにかく藁にもすがる思いでイギリスにやってきた、ただそれだけ、といった感じがとてもした。
そんなこんなで、読後感はすこしむわ~ん、どよ~んとしたものになるかもしれない。しかしロンドン新参者としては、関わることはないとしても、時に街で見かけることもある様々な人々の背景が少しでも分かったのは良かった。逆に今度は、普段非イギリス人に囲まれて生活しているので(職場でもイギリス人は少ない)、もう少し「アングロ・サクソン」のイギリス人の生態について知りたいかもしれない(イーストエンダーとかを見れば良いのかな?!)。
おまけ:
ツイッターで見つけた、アメリカ人が考えるイギリス人のイメージと、欧州の人が持つイギリス人のイメージの違い。これも引っ越してきてからよくわかった(笑)