愉快的陳家@倫敦

ロンドンで、ちょっと雑だが愉快な暮らし。

【本棚総ざらい6】嘘つきアーニャの真っ赤な真実

もうこの本を読むのは何周目だろう。米原真里さんの作品に惹かれるのは、やはり1960年代、プラハソビエト学校で学ぶという、当時の日本人にはなかなかできないユニークな経験をしたこと、そしてアメリカやイギリスや中国よりも、わかるようでわからないソ連、そしてロシアという世界のことを垣間見せてくれたからだと思う。

このノンフィクションは、そんな米原さんが通ったプラハソビエト学校時代の友人達がその後どうなったのか、ソビエト崩壊でわちゃわちゃしていた頃に、彼女がプラハに飛び、足跡を追い、再会するという話。

プラハから日本に帰国して30年、どこでどうしているかわからないギリシャユーゴスラビアルーマニア出身の友達3人の消息を、あちこち歩き回って探し、どんどん核心に近づいていく様子はやはり読んでいてわくわくする。プラハの春ソビエトの崩壊、それに伴う彼らの祖国の情勢といった、私達にとっては歴史やニュース上での出来事が、彼女たちの人生には直接影響を及ぼしているのも、のんきに日本で育った身としては、初めて読んだ時はかなり衝撃だった。

読書の良いところは、同じ本を読んでも自分の年齢や状況によって、やはり見えてくるところや心に残る部分が変わるということだと思うが、欧州に引っ越してきてから読み直したことで、やはり日本やアメリカで読んだ時とはまた違う感覚を覚えたりもした。やはりアメリカにいるときよりも、世界情勢に直接影響を受けて暮らしている友人や知り合いが増えたのもあると思う。この登場人物の一人も、再会した当時はロンドンに住んでいたな。今もきっとどこかで健在なんだろうか。

子供の時は、ただただ一緒に時間を過ごした友達の、細かい家族や国の事情、あの時なぜあんなことをしたのか、言ったのか・・それぞれが抱えるものや真実は、時間がたって大人にならないと理解できないものもある。この話は、再会を通じて良くも悪くも答え合わせができた話とでもいえるのかな。世界情勢がこんなになっている今、この本を翻訳して出版しても、全く古い時代の話ではなく他の国の人も読めるんじゃないかなとふと思ったりも。

この本は、NHKのドキュメンタリーで彼女がプラハで友人探しをした時の話がもとになっている。ドキュメンタリーはネットで探すとYouTubeにあがっているが、かなり短めなので、その分この本でもっと色々なことがカバーされている感じである。再会した友人達がカメラの前では話したくなかったこともここには色々と説明されている。

そして同時に、本人たちの中にある価値観やものの見方の矛盾について、米原さんがそれは違うでしょう・・!と強い思いを持ったりする部分もある。ドキュメンタリーの中では、お互いに淡々と話しているように見えるし、反論も強い反論には聞こえなかったりする部分が、本では結構強い感情や意見として書かれている。内心と実際の感情表現が、表に思うほど出ていない部分をドキュメンタリーで見たのも、なんとなく興味深かった。これは米原さんが日本的だったのか、人間やはり表に出る感情は実際の数割っていうところなのかどうか。