愉快的陳家@倫敦

ロンドンで、ちょっと雑だが愉快な暮らし。

助産師を呼べ!

9月にカリフォルニアに里帰りした時、あまりにアメリカへの里心がついてしまい、ロンドンに帰らなければいけないのに、このままではいけない・・・と「イギリスっぽいもの」を見て気分をイギリス寄りにしよう、と見始めたのが、イギリスのテレビドラマ「Call the Midwife」。

BBCのウェブサイト(イギリス在住者向け)、Netflixなどでも見られます

www.bbc.co.uk

おお、日本からだとアマゾンで見れる!プライムビデオまたはレンタルだと1話100円で見れるらしいぞ!日本語のタイトルは「コール・ザ・ミッドワイフ ロンドン助産婦物語」だそう、なるほど

第1話

第1話

Amazon

1950年代、戦後のロンドンは戦勝国とはいえドイツ軍からの空襲の被害や物資不足でまだまだ復興の真っ最中、特に労働者階級が多く住んだイーストエンドなどは、貧しい人達があまり衛生状況も環境も良くないところで、重なり合うように生活している。

このドラマは、そんなイーストエンドにある修道院(といっていいのかな)を拠点に、助産師、ナースとして町の人達の世話に奔走する修道女とナースの物語。

これが、イギリスにおける妊娠出産、そして医療の変遷、そして人々の暮らしや考え方、文化の変遷を知る上ですごく面白い上に、なかなかハートウォーミングで一度見出したらハマりにハマってしまいました。

国民全員に無料で医療サービスを提供し始めたのはイギリスが最初だそうで、このナースや医療資格を持つ修道女も、地元の医者とタッグを組み、そういった医療サービスの一部として、自転車に乗り往診をし、自宅出産の世話をする。

それぞれの出産にドラマや色々な背景があり、なんというか、無理やり表現すると、NHKの連続朝ドラと、コウノドリを混ぜたような要素もある感じのドラマです。

なにしろシーズン11まである長寿番組。朝ドラ要素は、働く女性が主人公であり、キャストの入れ替えはあるものの、ナースや修道女、地元の医者や彼らを取り巻く下町イーストエンドの人々・・と毎回おなじみの顔が出てくるので、色々なキャラクターに愛着がわいてくるところ。

そして舞台がロンドンの「下町」なので、イギリスにおける色んな義理人情的な部分も見れる。一方で、当時の価値観の変化も見て取れるので、例えばカリブ海アイルランドパキスタンなどからの移民に対する人々の態度、妊娠中絶に対する考え(と法律の変遷)、シングルマザーの問題など、人々の厳しい偏見や残酷な面も明らかになる。

さらに朝ドラっぽいなあと思うのが、当時はやった音楽(「ママー、ローリングストーンズのコンサートに行ってもいい?」)、当時皆が食べていたお菓子(日本だったらグリコのなんとかみたいな感じの)、皆がテレビを囲んでみている番組や流行のファッション、そしてちょっとした当時の事件やイベント(イギリスがワールドカップで優勝したり、ケネディが暗殺されたり、女王様が出産したり)などが、ドラマの中でちょこちょこ小道具として出てくるところ。

日本の朝ドラも、そんな感じじゃないですか?これが、イギリスに来てまだまだ日が浅い私にとっては、イギリス人の「懐かしポイント」がどういうのか良く判って、すごく参考になりました。

長寿ドラマなので、舞台も1950年代から60年代になると、人々の暮らしも、日本風に言うといわゆる長屋っぽい暮らしから、団地っぽい暮らしに変わったり、ファッションもどんどん明るく大胆になって行くのを見るのも面白い。

そして出産に限らず、様々な医療の変遷も見て取れます。興味深かったのが、人々が病院というものに当初非常に恐怖と不信感を持っていたという点。国民医療が無かった時代は、病院、というかそういう施設は、貧困層がぶち込まれて動物のように扱われる場所、というイメージも強かったようだし、きちんと免許を持たない民間医療に頼ることもあったのでしょう、なかなか医者に行きたがらない人も多かったよう。

出産も自宅でするのが当然で、産院だと至れり尽くせりのお世話をしてもらえる、というのは到底信じられなかったようです。一方、助産師が家に定期的に立ち寄りチェックアップをしたり、それが終わればお茶を飲みながら世間話をして関係を築いた上での出産というのは、今の時代にとっては非常に贅沢にも感じました。

ドラマではこの他にも、サリドマイド児やアフリカにおける女性の割礼問題、出産時の麻酔の導入など毎回様々な話題を取り上げています。

あまりに夢中になって見過ぎて、11シーズンあるドラマをほぼ1か月半ぐらいで見終えてしまいました。この番組は毎年クリスマスにスペシャルエピソードが放送され、そこから新しいシーズンが始まるのですが、2022年のクリスマススペシャルはリアルタイムで見れるのが本当に楽しみ!

ロンドンに住んでいますが、このドラマの舞台になっているイーストエンドにいるような、生粋のイギリス人、という人達と実際に知り合いになったり、やりとりする機会というのは意外になかなかありません。時々スーパーやお店の人、タクシーの運転手さんでいるかな・・といった程度。時に彼らの独特の訛りが何言ってるかわかんない!なんていう事もあり、時にそういう人達と出会うとどう対応していいのかわからなくて、ドギマギしてしまうこともあったり。

このドラマを見てさらに良かったなと思ったのは、時代設定は違えど、普段あまり交流する機会がないイーストエンドの人達をより身近に感じるようになり、おまけに彼らが使う言葉やそのアクセントも耳になじみ、理解が深まったところ。実際街中には、登場人物フレッド・バックルみたいなおじちゃんよく見かけるんですよね(笑)

また色々な土地出身の若いナースたち、そして様々な教養を持つ年配の修道女やナースたちの言葉遣いも独特で面白いです。使う言葉や表現が非常に詩的だったり、実際に詩や文学に親しみそれを普通に引用したり、日本語でいう所の「熟語」的な小難しい単語を使ったかなり大仰な話し方をするのは、見ていてちょっと真似してみたい・・と思うものの、語彙力的になかなか難しそう・・(例えばお酒飲むこともDrinkなんて簡単な言葉は使わずImbibeなどと言ったりします)。

なんというか、ドラマってその土地で生まれ育ったわけではなくても、その場所の価値観や記憶、経験を疑似体験できるのがいいなと思うんですが、このドラマはまさに、医療ドラマの一面も持ちつつ、イギリスにとっての懐かしさや義理人情、過去を振り返る上でのイギリス人のセンチメントを理解することができた良いドラマでした。めっちゃおススメ。

ドラマの原作は、実際に1950年代に助産師としてイーストエンドで働いた人の回想録。舞台となっているポプラーという地域も実在します。

ロケ地はケント州にあって、普段は博物館としても公開されているドッグヤード。今回の展示は見そびれたけど、いつか観に行きたい!