愉快的陳家@倫敦

ロンドンで、ちょっと雑だが愉快な暮らし。

小澤さんと春樹さん

ロックダウン中は閉まっていた地元の図書館も最近再オープンして、また本が借りられるようになりました。といっても事前にカタログを見て予約をして、取りに行くというシステムになったので、気軽にうろうろ本棚を見ることはできなくなってしまったのですが。

コロナ騒ぎが起きるずっと前に借りていた本も、返せず家に置きっぱなしになっていましたが、ようやく返すことができました(図書館が閉まってた間はもちろん延滞料などは免除。ホッ)

読んでいたのは、「小澤征爾さんと、音楽について話をする」の英語版。

内容は言うまでもないのですが、ジャズ同様クラシック音楽も聴きこみまくっている村上春樹さんが、巨匠小澤征爾と音楽談義をするというもの。話の一番最初からインパクトがすごくて、小澤さんが師事したレナード・バーンスタインと、ちょっと変わったピアニストだったらしいグレン・グールドの意見が合わず、コンサートの始めにバーンスタインが「このテンポは私が意図したものではございません」みたいなスピーチを聴衆にした、という話から始まります。

バーンスタインのスピーチ、ありました!これはすごい。

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しょっぱなからこんなエピソードや一流のオーケストラの裏話まで出てきてワクワクしますが、対談はそんな面白話に終始するだけでなく、音楽の聴き手としてのハルキさんと、演奏側である小澤さんのそれぞれの音楽の捉え方についての違いなども浮き彫りになって面白かった・・・のですが、あまりに読んだあと時間が経ってしまった上に本を返してしまったので、細かい部分を随分と忘れてしまった(苦笑)

それでも今も感覚として残っている感想としては、とにかく村上さんの音楽の聴き込み方がすごいということ。この交響曲は何年の誰の演奏がどうこうといった詳細にわたるトリビア的な知識だけでなく、その時々の演奏に関しても、オーケストラの音のことについても、とにかく具体的にあの音はどうだった、この演奏はこういう感じだったですよね、と具体的に言葉にしたり、意味的なものを見つける能力がものすごい。

自分も多少音楽をやるものとして、実際演奏する側はそこまで演奏する時に「意義」や「意味」や「意図」をかっちり言語化して関連付けることって、そこまでしないような気がするので、ここまで考えて聴かれるのは逆にちょっと怖いな・・とも思ってしまいました。対して小澤さんはもっと感覚的にそういうことをやってらっしゃる感じなので、村上さんに指摘されて初めて、小澤さんが色々気付いて話し出す部分もあり、やはりここは村上さんが聞き手だからこそ、小澤さんの考えや経験や話がここまでちゃんと「言語化」されたのが素晴らしいなと思った次第でした。

この本、英語で読んでしまったので、2人が実際にどんな口調で対談してたのかちょっとわからなかったところが残念。やはり英語に訳されると、それこそ言葉の端々から出てくる雰囲気や人柄とかがわからないんですよね。その分、会話のコアな意図はガンガン伝わってくるんですが。村上さんの本は何でもすぐに英訳されるので、海外にいても一番手に入りやすい日本人の作品なのですが、機会があったら日本語でちゃんと読みたい。

その他とりとめもなく書いてあった読書メモ

  • マーラーあまり聞いたことないのできいてみよう
  • 言葉で全部指示する指揮者ってそういえば会ったことない、意外とそのたたずまいや身動きでオケの音や感じが変わってくることある
  • マーラーのスコアはベートーベンのものより指示は全然細かい、これだけかっちり色んな指示があっても、それでも演奏するとそれぞれちがって聴こえる・・・大学の音楽概論の授業で、まさしく譜面の限界について、マーラーではなかったけれど別の作曲家(忘れた)を例に出して書いたら先生に「当たり前だ」とコメントされたのを思い出してしまった。本当に当り前なのかなぜ当たり前なのかその先がなかったのが恨みだが小澤さんはそこらへんもちゃんと考察していた。結局あの先生はそこまでわかって言ってなかったんだろうな。ケッ
  • 演奏側が頭の中で作りたい音を考える・・・にはやはり自分のスキルの幅や経験成長がないとそうできる余裕が生まれない(後半に出てきた若い演奏家向けワークショップの感想だと思う)
  • 小澤さんの指揮は一度だけ生で見たことがあって、多分東京文化会館で、尺八とか和の楽器を使った曲だった(多分武満徹のノヴェンバー・ステップスかな?)。多分中学生か高校生ぐらいの時で、あんまりおもしろくなかった・・のだけど、観客は何度もスタンディングオベーションしていてなかなか帰れなかった。前列に座ってた女の人が花束を持ってたのだけど、その花束のセロファンがものすごい音を立てていて、演奏中そればかり気になった記憶。色々勿体なかった。