愉快的陳家@倫敦

ロンドンで、ちょっと雑だが愉快な暮らし。

【本棚総ざらい2】マンボウ家族航海記

北杜夫の小説はひとつも読んだことは無いが、どくとるマンボウのエッセイは小中学生のころ地元の図書館で借りて読んでいた。どくとるマンボウの功績は、やはりなにより「躁うつ」という病気について世の中に広く知らしめたことだろう。

どくとるマンボウのおかげで子供心に、躁とうつが切り替わると人は人格や行動がこんなに変わるんだということをハッキリ理解した。ただし躁の時の行動がある意味面白おかしく書かれていたおかげで、そのしんどさ、家族の大変さについては、当時は良く判らなかったんだけど・・。

このエッセイは1986年から2003年に書かれたエッセイをまとめたもので、サンフランシスコの紀伊国屋の値札が貼ってあるのだが、自分で買い求めた覚えが全く無いので、おそらく帰国する誰かから買ったか貰ったのかも。

この本ではどくとるマンボウ躁状態の時に株にものすごいお金をつぎ込んだ時の話が結構長めに書かれている。1980年代の話なので、新聞や短波ラジオを聞いて市場動向をつかみ、証券会社に電話をして株の売買をするという、ある意味ものすごく牧歌的なやり方で滅茶苦茶なことをやっている。昔は証券会社の人が、買った物理的な「株券」を家に持ってきたりしていたのも面白い(今も?)。

今のようにオンラインで簡単にFXだなんだ、とできる時代だったら、どんな壮絶なことになっていたことやら。オンラインカジノだ、詐欺サイトにも引っかかってたかもしれない(苦笑)

それにしても作家って、どれ位儲かる仕事なんだろう。ここ何十年、日本の平均給与が全然あがっていないどころか、下がっているという話も目にする昨今だけれど、出版社に前借りする借金の金額や、株に費やした額そのものも、3-40年前の話だけれど、ものすごい額になっている。

ポケモンの話が出てきたのも意外だった、孫が夢中になっているものとして書かれていたのだが、どくとるマンボウの本でポケモンカードだ、ミニリュウオコリザル・・なんて言葉を見るとは思わなかった。それくらい自分の中では古い作家というイメージがあったのだけれど、思えばポケモンも登場してから随分時間が経っているということだった。

エッセイの後半は70歳代に書かれており、やはり体調についてのぼやきが多い。娘が書いたあとがきを読んでいても、元気だった頃の父親や、他愛のない日常が懐かしい思い出話となっていて、弱りゆく父親を目の前にあとどれだけ(本人はすごく嫌がっている)散歩に連れだせるか・・、と切ない終わり方になっている。なぜか色々著者の威勢のいい話からぼやきまで読んだ後での第三者によるこの文章は、自分の親も70代なのを思うと、ちょっとううとなった。