愉快的陳家@倫敦

ロンドンで、ちょっと雑だが愉快な暮らし。

2019積読解消:シャーロックホームズ

シャーロック・ホームズ大全

シャーロック・ホームズ大全

せっかくロンドンにいるからと、年末年始にかけてシャーロックホームズの話をぜんぶ読んだ。実家から送られてきた電話帳ぐらいの厚さがあるシャーロックホームズ大全。中学生ぐらいの時から家にあったけれど、ホームズが最後に死んじゃうんだと思って、最後まで読むのが怖くなりそのまま放置してあった(ちなみに名探偵ポワロの最後の本もその理由で読んでない)。

やはり面白かったのは話の中から垣間見えるビクトリア時代のロンドンの様子。よく読むと結構架空の場所が舞台の場合も多いが、身近になったロンドンの色々なエリアをホームズが駆け回る。街の建物の雰囲気も思えば今も大して変わらなかったり電車の路線は同じだったりするので、想像がますます膨らむ。

どんなに的確な推理をしても、馬車や列車しか移動手段がないから現場にかけつけるのに時間がかかったり、連絡手段も電報だったり。手紙やメッセージを送るにしても郵便というよりは、誰かに小銭を渡して託すほうが早かった時代。ちゃんと相手に届くかの保証があるとは限らなかっただろうけど、ガジェットは無くても、当時の出来る限りの手法を駆使しているんだろうなと想像するのも面白い。

あと男女ともすぐ失神して、だいたいブランデーやコーヒーで復活するのも読めば読むほど興味深い。もちろんこういうのは知識としては知っているが、実際そういうしぐさが生活の中に普通にあった世界のことを想像すると、なんだか不思議な気がする。今じゃ精神的ショックはコーヒーぐらいじゃどうにもならないからなあ。

BBCのドラマ「シャーロック」の現代版シャーロックホームズのインテンスな推理とアクションに慣れてしまった後だからか、オリジナルのホームズの話は意外とシンプルに見えてしまった。もちろん鋭い観察力はあるのだけれど、意外と状況証拠で色々と決めつけてたり、当時の社会的ものさしで、犯人の動機を短絡的に推測する部分もあった気がする。

今回読んだ中で一番好きだったエピソードは「黄色い顔」。再婚した妻の様子がおかしいと調査を依頼されたホームズの推理がはずれる話なのだけれど、珍しく子供がかかわるハートウォーミングな話。当時にしてもかなりリベラルな結末となる話で、それだけにやはり奥さんの不審な行動については、ホームズの推測も当時のバイアスからは逃れられなかったかな、意外と科学的じゃないじゃーん、なんて思ったりもした。

Paget Holmes Yellow Face child.jpg

子供への愛情、という他のエピソードではあまり見られなかった感情が見えたのが良かった。推理がはずれたホームズも子供を前にちょっと顔がほっこりほころび系な挿絵も良いw

外国文学を日本語翻訳で読むと、時々翻訳調の日本語が気持ち悪く感じることが多いけれど、この全集の翻訳はとても良かった。今でこそ、翻訳をするにあたっての調べものもネットでしやすくなったと思うけれど、ネット以前の時代に翻訳されたこの本、翻訳者個人がイギリスの歴史文化に深い深い理解があったり、並々ならぬ調査をしたのだろうかと思うと、なんだか重みも最近の翻訳本とは違ってくる気がする。

と、この翻訳をした鮎川信夫という人のことは知らなかったのだが、今Wikipediaを見てみたら戦後の詩壇で需要人物とされる詩人だったらしい。そして1986年に「甥の家族とスーパーマリオブラザーズに興じている最中に脳出血で倒れ」66歳で亡くなったそうだ。