愉快的陳家@倫敦

ロンドンで、ちょっと雑だが愉快な暮らし。

生まれたことが犯罪?!

2019年は読まないで家に溜まっているいわゆる積ん読状態の本をなるべく解消するのと、友達からおすすめされた本を積極的に読もうと思っている。

人のおすすめって、自分があまり手に取らなそうな本を読んで知らなかった世界を知るきっかけにもなるし、ニューヨークタイムズ・ベストセラートップ10、とかどっかのブログのおすすめ10選、みたいなところから選ぶよりも、もっとパーソナルな感じがして良いかなぁ、と思い。

そんな第一弾は、ベイエリアの友人Aけちゃんがおすすめしてくれたこれ。

Born a Crime: Stories from a South African Childhood

Born a Crime: Stories from a South African Childhood

トレバー・ノア、アメリカでやっている政治風刺ニュース番組風コメディショー「The Daily Show」でジョン・スチュワートの後釜としてキャスターをやってる人の回想録。

彼がキャスターになった頃、ちょうど我が家はケーブルテレビを解約して、テレビそのものもあまり見なくなってしまったので、彼のことをあまりよく知らなかったのだが、彼は南アフリカ出身のコメディアン。

アパルトヘイトが廃止される数年前に生まれた彼の母親はアフリカ系、父親はドイツ系スイス人。当時、違う人種のカップルが結婚したり子供を産んだりすることは違法だったので、彼の存在そのものがまさに犯罪だったと言うわけ。

彼のお母さんが色々すごくて、アパルトヘイトの時代にあって、本来人種差別の壁に阻まれるところを、ルールをすり抜け、教育を得、仕事を得、本来有色人種が住めない場所に潜り込み、白人男性の子供を産むのだけれど、彼の両親の関係も、人種を超えたロマンス・・とかそういうのともちょっと違う、そういうのを超えた理由で彼は生まれる。

当時黒人の母親と、カラード(混血)の息子が一緒に歩いても、白人の父親と息子が一緒にいてもそれは大問題になるので、彼は隠された存在で、幼い時は家の中にいることが多かったんだそう。

南アフリカの社会については、アパルトヘイトで黒人が隔離されていた・・程度のイメージがあるけれど、実はその黒人社会の中でも、違う部族があり、言葉も異なり、必ずしも画一的ではない。さらにはアフリカ人とはまた違う混血(カラード)と言う存在がある。さらに白人も、先にやってきたオランダ系白人と、後からやってきたイギリス系白人とでは言葉もそして社会的経済的ステータスも異なるなど、もっともっと状況は複雑。

そんな中、彼の母親は彼を英語で育てる。黒人できちんと英語が話せることが、南アフリカでは色々な壁を打ち破るきっかけになる。彼はさらに一緒に育ったいとこや母親の再婚相手などから色々な部族の言語も覚え、アフリカーンス(オランダ系住民が話す言葉)など、なんと8ヶ国語も喋れるんだって。他の人と見た目が違う彼が、相手の言葉を話すことで受け入れられたり、差別を免れたりする。

そんな彼がコメディアンとして成功していく過程というのはここでは全く語られず、南アフリカの子供時代、そして彼を産むことである意味自己実現(と言っていいのか)をしようとした母親のことについて語られる。

今こうやってアメリカで大成功している彼だけれど、若い頃は海賊版のCDを焼いては売りさばいたり、ハスラーみたいなことをして生活していたり、刑務所にいたこともあったりというのもちょっとびっくりした。

彼も母親も、人種差別、性差別、再婚相手からのモラハラにDVと、いろんなことの被害者とも言えるし、ちょっと自分の子供時代を考えると別世界な壮絶な話も多いのだけれど、なんというか、こういう状況も笑い飛ばせるコメディの力ってすごい。話の最後、とても悲劇的なことが起こるのだけれど、悲劇を笑いに変える母親の一言。ハァ〜!!となった。悲劇よりも喜劇を作る方が、俄然難しい。悲劇に引きずり下されるのではなく、そんな状況を笑いにする力は尊いなぁ。

それにしても、このお母さんはすごい。色々すごいのに、男の選択を間違うのはなぜだ。問題の大半はそれに起因してるよなぁ。でも南アフリカで、女性が生きていくにはこういう状況にスタックせざるを得なかったんだろうか。今まであまり考えることもなかったアフリカという地域、南アフリカという国のことについて、色々興味も湧いてきた一冊になりました。

この本は実は活字で読むより、オーディオブックを聞くのがおすすめ。友達もオーディオブックを勧めてくれたので、通勤や家事の間に聞いたのだけれど、トレバー・ノア本人が朗読していて、本の中に出てくる色々なアフリカの言語やアクセントがそのまま聞けたのがすごく良かった。

この話、映画化も進められているそう。映像でも見てみたい。ブラック・パンサーにも出ていた、ルピタ・ニョンゴがお母さん役だって。

日本語訳も出てる!最後ちょっと泣けるかもだけど、決して重い話ではなく良かった。

トレバー・ノア 生まれたことが犯罪! ?

トレバー・ノア 生まれたことが犯罪! ?

南アフリカの白人側の話としては、ずいぶん昔にこんな本を読んだこともあった

DONT LETS GO TO THE DOGS TONIGHT : AFRICAN CHILDHOOD

DONT LETS GO TO THE DOGS TONIGHT : AFRICAN CHILDHOOD

ローデシア紛争におもむき黒人ゲリラと戦う父、アフリカの農場で育った著者の子供時代、これまた一筋縄ではいかない母親の話。ちょっと詳細を忘れてしまったのだけれど、どっち側も色々なんか大変だ、というのが今も覚えている感想。もう一度読んでみようかな。