愉快的陳家@倫敦

ロンドンで、ちょっと雑だが愉快な暮らし。

孤味

台湾映画を見た。

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女手ひとつで娘3人を育てた母親、盛大なお祝いを準備していた70歳の誕生日当日に、長年音信不通だった夫の訃報が入る。台北で他の女性と暮らしていたらしい夫だが、最後を迎えたのは家族が住む台南の病院。娘たちは知っているようで知らない父親の葬儀の準備をするが、その間にもそれぞれに小さなドラマがあったり、今まで知らなかった過去の秘密が明らかになったりする、という話。

学生時代、台湾人の友人の所に遊びに行き、台北だけでなく、台湾各地の色々な親戚のおうちに泊めてもらい、泊まった先々で大飯を喰らわせていただいた(若いって恐ろしい)暖かい思い出があるせいか、台湾・・台北というより台湾の地方都市の風景を見ると、親近感というか、それこそ暖かいお湯に浮いているような、自分にとってもノスタルジックな夢のような不思議な感覚になる。

舞台は今卓球の愛ちゃんでも話題になっている(苦笑)台南で、若い世代は北京語を話してはいるものの、会話の中には聞きなれない台語が飛び交う。

エビ春巻きの屋台から始めて、レストランを出すまでに成功した母親の家の台所にある花柄のお椀、プラスチック製の水切りラック、物置部屋に紐をかけてまとめて置いてある古い本、茶色い板張りの壁。何もかもが自分の祖父母の家を思い出すようななつかしさもある。そして、母親が古い結婚写真や夫からのラブレター、そしてサインすることのなかった離婚届を大事にしまっているのは、モロゾフのクッキーのかんかん。こんなところまで、日本と台湾のノスタルジーは似ているのか?!・・と少し驚いたりもする。

一方で、映画に出てくる道教や仏教のしきたり、そのお葬式の仕方はとても独特で、見ていて興味深い。家族で紙の花を折り、お葬式の何日も前に祭壇を作り、色々な弔問客を迎える。仏教のお経の読み方も、日本のものとはだいぶ違う。お寺での拝拝、妊婦のお腹に巻く赤い糸。悩み事にはおみくじを引き、解決策を得ようとする。現代の中にも隣り合って存在する、迷信やまじない的な世界。

3人の娘達は地元や台北でそれぞれ仕事や悩みを抱えながら暮らしている。3人が集まり母親と少し口論になったりしながら、それでも爆発的には感情をぶつけ合わず、家族という繋がりと信頼の中である意味淡々と、葬儀やものごとに対処していく。

気が付くとこの映画はあまり音楽が無かったような気がする。こういうちょっとアート風の映画のお約束なのかもしれないが、日常の音と会話が、そういう音楽の補助なしに流れていき、その中の会話や空気に引き込まれていく(予告編では変な主題歌流れているが映画そのものには出てこない)。

この映画の英語タイトルがLittle Big Womenといって、多分小さく弱く見えるけれど強く心の広い女性たち、みたいな意味を持たせたかったのかなとも思うが、こういう女性を中心とした物語の説明書きやラベルに「強い女性」という言葉を使うのも、なんだかちょっと違うんじゃないかな、という気がする。

ものすごく大きなドラマにはならなくても、色々なことが流れるように起こり、その中で皆悩み迷い決断し、後悔したり、これで良かったのだと納得したり、それを繰り返し、時間が過ぎていく・・それを強いと言っていいのかどうか、それが言葉として合っているのか、他にいい言葉がないものかな、とつい思ってしまう。

ちなみにこの映画の次女役はビビアン・スー。日本のバラエティに出ていた頃のイメージが強かった(ちょうどブラックビスケッツが人気だった世代なので)けれどすごくいい感じの女優さんになっていた。この映画のプロデューサーも務めたそう。

おまけ