愉快的陳家@倫敦

ロンドンで、ちょっと雑だが愉快な暮らし。

矢野顕子と、ものすごかった後期高齢者ジャズ

ロンドンジャズ・フェスティバルのプログラムのトリとして、矢野顕子がロンドンに来た!

学生時代、よく彼女のピアノをコピーしては弾いていた時代があったなあ。思えば彼女のコンサートは大学生の時に一度行ったきりだけれど、10代20代の頃は彼女の音楽を良く聴いていた。ある時から、ふと聴かなくなった(新しいアルバムが出ても買わなくなった)けれど、聴き込んでいた昔の曲は、今でも頭の中で時々再生されている。たまにピアノで弾くこともある。

今回はピアノ一本で、どちらかというと初心者向け矢野顕子定食Aという感じの選曲だった。彼女のソロコンサートというわけではなく、あくまで日本のジャズ紹介の一部としての登場だったけれど、初めて彼女の曲を聴くイギリスの聴衆にはどう聴こえたんだろう。というか、矢野顕子矢野顕子というジャンルとしか言いようがない気がするので、彼女の音楽をジャズと括ってしまうのもどうなのかな?とも思うけれど😅

オープニングは東風、その後春咲小紅、How can I be sure、Rose Garden、Prayers、ごはんができたよ、Whole lotta love、ひとつだけ(順番イマイチ自信なし)。東風はYMOゆかりでもあり、春咲小紅は「私の唯一の日本のヒット曲」、Prayersはパット・メセニーが書いてくれた曲、レッドツェッペリンのカバーのWhole lotta loveはやはりイギリス人の聴衆が反応していた、そして最後はみんなが好きだと言ってくれる曲、という感じに、本当にベーシックな矢野顕子詰め合わせ、だった。毎回自由に弾く矢野さんだけれど、曲によってはレコーディングにすごく近いアレンジだな、というのもあった。

昔の話をしようにも、以前ロンドンに(YMOとして)来た時の場所も、昨日食べたものも思い出せない・・と話していた矢野さんだが、彼女の歌声は全然変わっていなくて、耳が学生時代に戻ったような気分になった。と同時に、私も年をとったので、昔は呑気に聴いていた「ごはんができたよ」の歌詞・・特に「辛いことばかりあるなら帰っておいで」の所で思いがけず涙腺崩壊して自分でちょっとビックリしてしまった。辛いことばっかりあるわけでもないと思うのに。

さて、もう半年ぐらい前にとっていたこのチケット、矢野顕子をフィーチャーしたものだと勝手に思っていて、同列に並べられていたミュージシャンの名前は彼女のバックバンドのメンバーかと思っていたのだけれど、その後に出てきたのは今まで知らなかった日本のジャズ界の重鎮達で、実は矢野さんの演奏は前座だったんだな、と思うくらいその衝撃はすごかった。

2階席だったのと、目が悪いのもあるが、遠目に見える彼らは30-50代ぐらいなのかな?と思っていたらなんと・・メンバーの3人は80代前後と後で聞いてびっくり。そんな老齢な、落ち着いて丸みのあるジャズとかでは全然なく、完全に攻めまくったものすごい熱量の演奏だったのだ。一曲終わり、ドラムの人がマイクを持ったはいいものの、取組後の力士インタビューのごとくゼイゼイしていて、それこそ力士の如くポツポツと詰まった声で話すのであれれ?と思ったら御年80歳とのこと。息も切れ切れにメンバー紹介をしたと思えば、急にビシッとしてそして僕は、森山 威男でぇーす!と叫んで二曲目へ。

特にピアノは殴打されこねくりまわされ、時に椅子の上でジタバタ、時に勢い余って立ち上がる演奏は、実はこれ矢野さんが弾いたのと同じピアノだよね?という位音量も音色も全然違い、そうだピアノは打楽器だったと思い出させる演奏。一曲目はジャケットを着て弾いていたものの、すぐに暑くなってジャケットを脱ぎ捨て、赤いTシャツ1枚で演奏していた板橋文夫さんは76歳・・。

そこにベース、女性テナーサックス、そして帽子を被って渋く決めたアルトサックスが絡んでの演奏は圧倒の一言だったのだが、実はダイナミックなピアノやドラムの演奏にばかり気を取られてしまったのだが、テナーサックス奏者峰厚介さんが実は最年長で81歳だった。まぢか。帽子を被っていたのもあるが、遠目では本当にわからなかった。立ち振舞もだけれど、81歳でこの肺活量なのか。

演奏者の年齢のことは後から知ったので、もう聴いている最中は、ドラムの人は年配なのだろうけど、やはり中年にさしかかった人達のジャズの、深みもあるのにエネルギーのあるジャズはすごいな、なんて思っていたので、本当にひえぇであった。そして、もしかしたらこんなセッションを聴く機会はもう二度とないかもしれないから、思いがけずこんな宝のような演奏を聴けて本当に良かったと思った。

ドラムの森山さんは、演奏前は2つ心配があって、今日は本当に叩けるのかな?というのがひとつ(後できいた年齢のことを考えると納得)、もう一つはちゃんと演奏終われるのかな?(楽しすぎて終えたくなくなるかも)というのがあったと言っていた。そしてしみじみと死んだ仲間の話をしたと思えば、彼が作ったのはこんな曲でぇぇぇーす!といきなりまたドカンと始めてくれたりした。そしてコンサートも終盤になると、これで終わりだけど終わりにしたくない!と言ってもう一曲やってくれたのだが、本当に終わって欲しくない演奏だった。もっと小さな箱で間近で、お酒でも飲みながら一緒にヤー!!とか言いながら聴きたかった。そんなクインテットのメンバーは、サックス:峰厚介、ピアノ:板橋 文夫、ドラム:森山 威男、ベース:須川崇、サックス:守谷美由貴、でした。

ちょっと前には細野晴臣がロンドンに来たりと、私が昔から夢中になって聴いていたミュージシャンが立て続けに来てくれて本当に嬉しい。と同時に、前回も今回も、自分がお目当てのミュージシャンよりもインパクトの強い演奏にも出会うことができて、自分の中でまた新しい感情や経験が生まれているのも嬉しい限りである(細野さんのコンサートに関しては、前座の話を書いて満足して終わってしまっているw)

このクインテットを聴く前の私の数少ないジャズ鑑賞のベストワンは、めちゃくちゃ小さい箱で聴いたブランフォード・マルサリスだったのだが(な、なんと21年前?!)、それもイッちゃってる演奏ですごかった。クラシックしか演奏経験のない身としては、ジャズは聴いて楽しいが、どうやってアンサンブルを決めているのかとか、作り方は全然わからないので、毎回気持ちよさそうに演奏しているのを聴くとどうやって?という気持ちとともに、本当に羨ましくなる。

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