愉快的陳家@倫敦

ロンドンで、ちょっと雑だが愉快な暮らし。

時空を超えた料理本

私が母から引き継いだ料理本はいくつかありますが、そのうち特に気に入っているのが、暮らしの手帖社が出した「おそうざい十二ヶ月」と「おそうざいふう外國料理」の2冊。

おそうざい十二ヵ月

おそうざい十二ヵ月

おそうざいふう外国料理

おそうざいふう外国料理

おそうざい十二カ月

おそうざい十二カ月



「おそうざい・・・」のほうは昭和44年出版、定価1500円。「外國料理・・・」のほうは、昭和47年出版、定価1800円。当時20代だった母が買い求めたのでしょうか。もう35~40年ぐらいたっている割には、かなり綺麗です。


特に「おそうざい十二ヶ月」は最近和食のおかずを作るときに大いに参考にしています。「吉兆」から独立した、大阪の「生野」という料理屋の小島信平さんという人が書いたレシピは、ちょっと懐かしい関西風でもあり、眺めているだけで楽しいです。


これを見て「ごぼうのすのもの」「水菜と豚肉のからしあえ」「なすびを田舎風に炊いたん」とか色々作りました。旬の材料を使うので、本は「春・夏・秋・冬」の4部に分かれていて、夏は妙になすびの料理が多かったり、今頃は大根とか、いろんな鍋料理が紹介されていたり。でもアメリカで手に入らない材料とかもあるし(はもとかアメリカにあるのかなぁ・・ぶりも旦那にニジヤで探してもらったけど無い言われたらしいし)、30年以上前の本だけあって、材料に「くじら」なんてのもあったりします。あと、結構味付けにふんだんに「味の素かいの一番をふりかけます」というのが出てくるのも、時代を感じさせますなぁ。


でも何よりも、この本の好きなところは、シンプルでわかりやすい説明と、何か懐かしい感じの、なんともいえない文章のトーン。たとえばニラ雑炊のとこには


「ニラずきの方には、やめられないほどおいしい雑炊です。ただし、こういった雑炊はあたためかえすとまずいので、顔をみたら炊きはじめるくらいにします」


まぐろごはんのとこには


「いよいよこれからというたべぎわに、作ります。ご飯は熱いほどおいしいからです。冷めたらたべられません」


揚げナスのとこには


「なすを揚げると油がいたんで、あと使えませんから、一度使った油で揚げたほうが経済です」


最初は昭和もちょっと前の文章だから懐かしいのか、暮らしの手帖独特の節回しなのかと思っていたのですが(文章の最後に読点が無かったりするのも暮らしの手帖の特徴かも)よっくよく読んで見ると、これ関西弁そのまんまなんですね。そう気がついて読んで見ると、普通の文章のはずなのに、作り方もすべて何か大阪のおっちゃんの丁寧な語り口調で書かれている感じがします。時代を超えて、どっかの大将に料理を習っているような気になります。


このレシピは、昭和31年から43年までにだされたものをまとめたものだとか。あとがきのところに、料理の本ができるまでの経緯もあるのですが、それもまた時代を感じさせます。この吉兆出身の懐石料理人である主人に仕事を依頼をしたところ、最初は「この私がおばんざいでっか」みたいな反応をされたけれど、最後にはおそうざいをおいしく食べてもらうことは大事だと「やらしてもらいまっさ」と快諾してもらったこと。料理屋さんが行く市場と、一般の人たちが行く「市場(スーパーではない)」は違うので、まずは普通の市場に出かけて何があるのか見て歩き、さらに東京と大阪でも売っているものが違うので(今じゃ多少地方色があっても、売ってるものはだいぶんいっしょですよね)、それも見て歩き、料理人が仕入れる材料と、一般の人たちが買う材料がえらい違うということにも気づいたとか。


「外國料理・・・」のほうは、洋風、中華風のものを集めたレシピ集で、これは大阪ロイヤルホテルの常原久彌さん、帝国ホテルの村上信夫さん、王府の戦美樸さんという3人の人のレシピです。当時手に入るもので作っているので、現地のものとはまたちょっと違いはするのですが、「スペインふうカレーごはん」はパエリアだし、「ジャワふうカレーごはん(ナシゴレンの変形??)」なんていうのもあるし、スパニッシュオムレツとか、アイリッシュシチューとか、他にもロシア料理やイタリア料理(表記がシーフッド、とかスパゲチ、なのが可愛い)などエスニックブームだ何だという前から、結構日本には色々な食文化の紹介があったんだなぁ、ということがわかって楽しい。中華の部もかなり充実していて、今までに食べたことのない、でもすごく日本人好みでおいしそうなレシピがたくさん!思えば家庭に中華料理がこんなに入ってきたのも、戦後のことですしね。勝手な推測ですが、この本はある意味、3人のシェフによる外国料理啓蒙の意味もあったかもしれません。


それにしても、暮らしの手帖の文章って、すごく独特な素朴さがあって、どんなことが書いてあっても、味わって読んでしまいます。この「外国料理」の本にも、はじめに色々と注意書きがあるのですが、なんとも言い含めるような書き方に、一度読んだらいやでも覚えてしまいます。


「味がうすいときは、塩かしょう油を足す、というのはあたりまえのことですが、塩がききすぎたときは、わからないくらいお酢をたらすと、塩辛さが、やわらげられます」


なるほど、勉強になります。そして


「こういう料理の本をみながら、新しい料理をお作りになるときは、どうか、ひとつの料理を三回は作っていただきたいと思います。一回目は、どうしても、本を見ながら作るのでうまく出来ないのが、あたりまえなのです。二回目には、少し余裕ができるので・・・・(中略)、三回も作ると、その料理はまず人並みにできるようになります。本職のコックさんでも、新しい料理を作る場合は、最低三回は作っています」


ちなみに、母から受け継いだこの本ですが、この本に載っている料理のどれ一つとして、我が家の食卓にのぼった記憶がありません。作ったことがあったとしても、本職のコックさんの忠告を聞かずに最低三回作らなかったということなのかもしれません。道理でこの本が40年以上たっても綺麗なまま残っているわけです。そして40年後のアメリカで、この本がついに日の目を見ることになるとは、これまた何ともおかしな話です


Old japanese cookbook