愉快的陳家@倫敦

ロンドンで、ちょっと雑だが愉快な暮らし。

ロシヤのヌコチャンの本

SNSで紹介されていていいなと思ったものは、ブックマークして、時間がかかっても読んだり試したりしてみている。この本もツイッターでおススメされたもの。

表紙が可愛いので、勝手にネコチャンの本と読んでいるがゴリゴリのロシア文学である。

読んだのは英語版だが日本語版もある。

この本はソ連の体制批判が含まれていると睨まれ、作者ミハイル・ブルガーコフが存命中には出版されなかったそうだが、色々不思議なことがワチャワチャひっちゃかめっちゃかに起こる小説である。アマゾンの紹介文には「奇想小説」と書かれていた。なるほど。

実際話は色々な登場人物や物語が入り組んで登場する。聖書の時代、キリストの処刑を決めた総督。そしてモスクワに現れた、キリストの処刑をまるで見てきたかのように語る謎の外国人(当時のソビエトでは外国人はその存在だけでなかなか怪しい)。その外国人に未来を予知されて、頭パッカーンとなってしまうソビエト文壇関係者。さらにはモスクワの劇場に謎のマジシャンはたまた魔法使い。そして人間のようにふるまう助手の黒ネコチャンまで登場して、一体どないなっとうねん?どない収拾つけるねん?と行ったこともなければ見たこともない、モスクワの街で起こる大混乱にこちらの頭も混乱する。

そして半分読んでも本のタイトルにもなっているマスター(巨匠)もマルガリータもまだ登場しないことに途中で気付き、ん?となる(後半出てくる)

思えばトルストイドストエフスキーだ、ロシア文学はほとんど全く読んだことが無い。罪と罰戦争と平和の分厚さに絶望し、アンナカレーニナか何かは読み始めたものの、登場人物の名前の長さわからなさに匙を投げ、それっきりな気がする。イワンのばかもどんな話だったか忘れてしまった。そういえばロシアの映画も何もみたことないかもしれない。そんな訳で、思えばロシア文化や文学に対する基礎というか土壌みたいなものが全くもって無い。なんとなくの雰囲気さえわからない。ロシア文学を知らなさすぎるが上に、自分がちゃんと理解して読み進められているのか、時々不安にもなる。

そして話は最後まで、そんな不安感を解消させてくれないまま、う、ううう?そうか、え、なんじゃこりゃ、なるほど・・ほへー!という感じで終わった。なんというか、弦楽器がうねうねと不協和音を奏で、ドンガラガッシャーン!と打楽器が上から落としたような音をだし、金管楽器が揃わないリズムで恐怖をあおるような音をだしている・・といった感じの近代音楽を聴いて、最後まで首をひねりながら劇場を出ていくような感じの小説だった(結末はちゃんとあるけれど)。

ちょうどウクライナ侵攻が始まった頃、キエフ出身の作家の本として紹介されていたのも本を手にしたきっかけだったけれど、ミハイル・ブルガーコフは出自はロシア人のよう。しかし周囲でもそうだが、ロシアにもウクライナにも縁が深い人は多い。作者が存命中には出版されなかったこの本は、検閲されまくったものがようやく、書かれて20年以上たった1966年に出版されたらしい。

しかし悲しいかな、どの部分が禁書にしてしまうほどの体制批判になっているかも予備知識があまりに無いのでなんとなくしかわからず(まずロシアの禁書になった文学の歴史をしらないとわからないこともありそう)。この話自体もゲーテファウストの影響を受けていたり、登場人物にベルリオーズやストラビンスキーという名前が出てきたり、また他のロシア文学からの影響や、パロディが入っている、らしい、のだが全くそういうのも気が付かない。英語の翻訳本でも、独特の表現や言い回しが出てくるところもあったが、多分それも何かロシアっぽいものだったり、何かを揶揄していたりするんだろうか・・と思うものの、深く理解はできていない。

もともと一度読んで話の筋だけ追って面白かった、で終わる話ではなく、幾層にも話が重なったこの小説は何度でも読み返すたびに色々な意味が見えてくる話だろうと思う。色々な素養があればあるほど、見えてくるものが違うんだろうなと思いながら、自分のロシアについての知識や文学の素養の無さばかりに気が付く話でもあった。でもまだまだ読んで一巡目である。今後素養が蓄積されるにつれて(蓄積される気満々)、そういうことだったのか!と気づく日を楽しみにしようと思う。

オマケ:
この作者はイッヌの話も書いている。こちらは犬に人間の間の脳下垂体と睾丸を移植する話ですw

ロシア文学について最後に読んだのはこれ。
marichan.hatenablog.com

【本棚総ざらい3】サッカー選手が書いた子供の本

家にある活字を読み尽くしたい衝動はちょこちょこ続いています。

これは子供がどこかから無料でもらってきた本。

大事なサッカーボールを無くした中学生のマーカス。他にも大事にしていたものが無くなってしまった「ブレックファスト・クラブ」のメンバーと一緒に、鍵を握る謎の野獣の正体を暴く話。

主人公は新中学生。イギリスの中学校は日本だと小5~小6ぐらいの年齢から始まるので、日本で想像する中学生より多少年齢は低いかもしれない。文章や内容もどちらかというと小学生向けといった感じで、子供は貰って来たものの、ちょっと読んでいてつまらないとやめてしまった。話も凡庸な感じで、ネタバレするとサッカーボールや色々なものを隠していた野獣の正体は、薄汚れてゴミだらけの犬。

ただこの本で言及したいのは作者。マーカス・ラッシュフォード。そう、イングランドの代表も務めたこともあるマンUのサッカー選手です。

25歳とまだお若い彼、イギリスがコロナでロックダウンになり、貧困家庭向けの無料学校給食プログラムが無くなってしまいそうになった時、子供達に食事を届けるチャリティー活動を開始。2000万ポンドの資金を集めたり、政府に公開書簡を送ってプログラムを続けるよう政府を動かした功労者。

それ以前からもホームレスに物資を届けるためのチャリティ活動など色々していたみたいで、若いながら王室から勲章ももらっている人です。

そしてこの本も、マーカス・ラッシュフォードのブッククラブ、の一環として出版された本だったらしい。主人公もサッカー少年マーカス。シングルマザーのお母さんと公営住宅に住み、色々な人種背景を持つ友達のいる公立の中学校に通っていて、学校が始まる前には、無料で朝食が提供される「ブレックファスト・クラブ」で友達と集まり、そこからちょっとした冒険が始まる、という内容になっています。

(うちの子供の学校にもブレックファスト・クラブがあり、行くと誰でも無料で食べられるオレンジジュースやシリアル、クロワッサンなんかが置いてあるそうです。朝ごはん食べて行っているけど、子供も時々寄っているらしい。午後にも無料スナックが何かしら置いてあるらしい)

多分自分と似た背景を持つ子供達が共感できるような設定にしたんだろうな。そして読書はあんまり好きではないけれどサッカーは好き、という子供にも読みやすくする配慮がされている感じでした(本人も初めて本を読んだのが17歳の時だったそう)

共著の人の名前があるので、多分ご本人は話のアイデアをざっと話して、共著の人がほとんど書き上げたのだとは思いますが、自分の成功をこうやって色んな活動に還元していてエライなあと思いました。

literacytrust.org.uk

【本棚総ざらい2】マンボウ家族航海記

北杜夫の小説はひとつも読んだことは無いが、どくとるマンボウのエッセイは小中学生のころ地元の図書館で借りて読んでいた。どくとるマンボウの功績は、やはりなにより「躁うつ」という病気について世の中に広く知らしめたことだろう。

どくとるマンボウのおかげで子供心に、躁とうつが切り替わると人は人格や行動がこんなに変わるんだということをハッキリ理解した。ただし躁の時の行動がある意味面白おかしく書かれていたおかげで、そのしんどさ、家族の大変さについては、当時は良く判らなかったんだけど・・。

このエッセイは1986年から2003年に書かれたエッセイをまとめたもので、サンフランシスコの紀伊国屋の値札が貼ってあるのだが、自分で買い求めた覚えが全く無いので、おそらく帰国する誰かから買ったか貰ったのかも。

この本ではどくとるマンボウ躁状態の時に株にものすごいお金をつぎ込んだ時の話が結構長めに書かれている。1980年代の話なので、新聞や短波ラジオを聞いて市場動向をつかみ、証券会社に電話をして株の売買をするという、ある意味ものすごく牧歌的なやり方で滅茶苦茶なことをやっている。昔は証券会社の人が、買った物理的な「株券」を家に持ってきたりしていたのも面白い(今も?)。

今のようにオンラインで簡単にFXだなんだ、とできる時代だったら、どんな壮絶なことになっていたことやら。オンラインカジノだ、詐欺サイトにも引っかかってたかもしれない(苦笑)

それにしても作家って、どれ位儲かる仕事なんだろう。ここ何十年、日本の平均給与が全然あがっていないどころか、下がっているという話も目にする昨今だけれど、出版社に前借りする借金の金額や、株に費やした額そのものも、3-40年前の話だけれど、ものすごい額になっている。

ポケモンの話が出てきたのも意外だった、孫が夢中になっているものとして書かれていたのだが、どくとるマンボウの本でポケモンカードだ、ミニリュウオコリザル・・なんて言葉を見るとは思わなかった。それくらい自分の中では古い作家というイメージがあったのだけれど、思えばポケモンも登場してから随分時間が経っているということだった。

エッセイの後半は70歳代に書かれており、やはり体調についてのぼやきが多い。娘が書いたあとがきを読んでいても、元気だった頃の父親や、他愛のない日常が懐かしい思い出話となっていて、弱りゆく父親を目の前にあとどれだけ(本人はすごく嫌がっている)散歩に連れだせるか・・、と切ない終わり方になっている。なぜか色々著者の威勢のいい話からぼやきまで読んだ後での第三者によるこの文章は、自分の親も70代なのを思うと、ちょっとううとなった。

【本棚総ざらい1】Woman in Black

図書館や本屋にある本を全部読みたい、料理本に載っているレシピを全部試したい、と絶対実現不可能な衝動に駆られることが多々あるのだが、今は家にある活字という活字を全部読み尽くしたいという衝動に駆られている。それくらいなら時間をかければできるかもしれない。

夫がsci-fiやホラー系のBook Exchange(不要になった本を交換する会的なもの)に行っておススメだと貰って来た本。薄いので思わず掴んだ。

夫は最近英語版の横溝正史を初めて読み、どの文化にも田舎のダークな秘密的な話があるのだなあ、と言っていたが、この話はまさに、イギリスにおける横溝正史チックな世界の話。といっても、こちらは探偵ものではなく、ホラーというか、ゴーストストーリー。

舞台は日本でいったら大正時代。ロンドンの若い弁護士が、上司に言われて、ある土地で亡くなった老女の遺産整理に行く。

その老女は潮が引かないと到達できないような、周囲を沼地に囲まれた場所にぽつんと建つお屋敷に一人で住んでいた。他に身寄りもない。しかしその町の人に話を聞こうとしてもその老女の名前を言うと、皆一斉に口をつぐんでしまう。何とか村の祟りジャーみたいな感じじゃないか!

さらに老女を埋葬した真昼間の教会で、不気味な黒い服を着た女の姿を見る主人公。しかしそのことを口にすると、さらに周囲の反応は・・・。

という訳でこの若者はひとり、お屋敷に滞在し、遺産整理に必要な書類を探し、整理しないといけない。けれど、屋敷の内外で色々不穏なことが起こり始める~でも逃げようにも周囲はズブズブの沼地、おまけに霧が立ち込めて何にも見えない・・ギヤァァァ~スケキヨ~(違)

うすら寒い吹きっさらしの土地、外の世界へのアクセスが無い不気味なお屋敷・・はなんとなくアガサクリスティの「そして誰もいなくなった」も思い出す。やはりイギリスに住んでから読むと、空気感や青グレーな色彩も簡単に想像できる気がする。

話としては、非常に正攻法なゴーストストーリーという感じであり(そんなに色々知っているわけではないが)なんとなくこうなるんだろうな~と顛末は見えるような気はするものの、じわーりじわーりと主人公が追い詰められていく感覚を一緒になぞって怖いな~怖いな~と感覚を楽しんだ。

感想としては、実際に主人公が幽霊に悩まされているシーンより、最後の数ページが一番怖い。あと幽霊にロジックを求めちゃあいけないんだろうが、恨みを晴らす線引き、どないすんねん、と思った。成仏っていう概念が西洋にないからか、質が悪い気もする。そういう点では日本の幽霊は義理堅いというかなんとなく幽霊としてもちゃんと貞節を守っている人(?)が多い気がした。

個人的には家の中で起こる怖いことより、屋外で起こる怖いことのほうが怖い。自然に囲まれて右も左も分からず、手も足も出ない感覚は、幽霊が関わっていようがいまいが怖いのはちょっと経験済みなので、それを思い出して静かに恐怖しつつ読んだ。

この小説じたいは1983年に出版されたそうで、中高の「国語」でも読まれることがあるらしい。舞台となっている時代も反映して、ゴシック小説と呼ばれるジャンルだそうな、思えばこういうの初めて読んだかもしれない。そういえば子供の英語の先生に、子供が書く文章がゴシック小説っぽくてなかなか良いと褒められたことがあったのだが、結構ダークなトーンで書いてるという事なのかいな・・

2度映画化されており、最近のやつはダニエル・ラドクリフが主演していた。ネットフリックスにあったので見てみよう。ウェストエンドでもう25年ほど舞台化もされているそう、しかももうすぐ打ち切りらしい。どうしよう、せっかくだから観に行こうか。

日本語翻訳本もあり

歯科矯正心の準備

先日歯科矯正を始めた子供であるが、さすがに最初の数日は痛がったので、痛み止めを飲んでしのいだりしていた。

思えば同じ年頃で私も矯正したけれど、薬も飲まず、だまーって耐えてたなあ。

歯磨きなどメンテナンス方法も、先生が専用の歯磨きセットをくれて丁寧に教えてくれた。

器具が口の中に当たって痛い時には、蝋を丸めてワイヤーやブラケットの上に貼りつけて凌ぐ。これにはびっくり。私の時はやらなかったなあ。

思えば子供の時に先生に受けた指示なんて何も覚えていない。親に伝えていたのかな。矯正歯科医に限らず、今の先生は、子供に直接話しかけて子供に説明してくれるのはすごくいいなと思う。

歯科矯正にまつわる色々、子供は子供で、こういう本を小学生の時に読んでいたので、ある程度前知識というか、覚悟はあったらしい。

The Baby-Sitters Clubという小学生に人気のシリーズがあるのだけれど(Netflixでドラマにもなっている)その作画も担当している漫画家Raina Telgemeierの子供時代を描いた自伝的グラフィックノベル

家に転がっていたけれど読んだことは無かったけれど、この機会に私も読んでみたら、舞台はサンフランシスコだった。彼女の年齢も私とあまり変わらないので、どちらかというと私と同じ時代のティーンエイジャーの話。

もともと歯列矯正を始める予定のところに、転んで前歯を折ってしまってさらに大変な治療を受けることになる作者。ひたすら痛いし見栄えも悪い矯正器具を着けたり治療がなかなかうまくいかなかったり、それにあわせて中学生から高校生へと多感な時期の話、そして当時起きた大地震の話などが語られる。

昔のサンフランシスコでも、やっぱりその景色や雰囲気を懐かしく思い出してしまった。

そして読んでいて決して一筋縄ではいかない、色んなモヤモヤや複雑な気持ちが入り混じる、思えば楽しくもあるけど結構しんどくもあるティーンエイジャーという時期の感覚を、読んでいてうわーっと感じて、読後はなんだかちょっとモワンとした、なんとも言えない気持ちになってしまった。苦笑。別に暗い話では無いんだけれど・・。

しかし読んでいて驚いたのは、アメリカとはいえ、さすがに30年前は結構医者も親もエンパシーの無い無神経なことを子供に言ってたんだな・・ということ。あとこの家族特有だとは思うが、なにかとそりが合わない小さい妹との関係も見てて疲れた。

ちなみにこの妹との話を描いた続編的な本もある。これも家にあって読んだけれど、なんだかさらにぐったりしてしまった母だったのでした(苦笑)