愉快的陳家@倫敦

ロンドンで、ちょっと雑だが愉快な暮らし。

 小さいさん、登場


11時にプッシュを始めましょうといわれ、興奮しながらも多少眠ること数時間。看護婦さんが入れ替わり立ち代りやってきて、私の熱をはかったり、血圧をチェックしたり。しばらくすると当直のダンディー先生もやって来た。週末の出産になったので私のかかりつけの先生の立会いではなかったけれど、ダンディー先生は私の友人のかかりつけの先生であった。友人がよろしく言ってましたよ、などと話をするなど余裕しゃくしゃく。


しかしプッシュする時間になっても、小さいがあまり下に下りてきていないという。陣痛のグラフを見ても、定期的に陣痛は来ているものの、一回の長さが30秒とか短いらしい。なので、陣痛促進剤を入れます、ということになった。あひゃー。でもこれでプッシュできるのだったらいいか・・・。


促進剤が入ってしばらくして、ふと麻酔が弱くなっていることに気がついた。完全麻痺していて、動かせなかったお尻の穴の筋肉が動かせるようになっている!こ、これは・・・もしかして麻酔切れてきてる?促進剤効きすぎ?もしかして麻酔が効きにくい体?!またあの痛みがもどってくるわけ?と痛いの反対委員会はにじりよる痛みにひしひしと恐怖を感じ始める。


しばらくすると、ま、またかるーい便意のようなものが・・・・・!!!


麻酔が切れてるっぽいんですけど、と訴えるも、今麻酔をmaxでいれているので、これ以上すぐには量を増やせないとかなんとか言われる。ええーー。なんか運子したい感覚なんですけどー!!と訴えると、じゃあそろそろプッシュしましょう、といきなりベッドがシャキーンと分娩台に早変わり。


今考えると、出産にむけて自分では色々準備していたつもりでも、実際は全然準備不足で、「いきむ」というのがどういうふうにすればいいのか、実は全然わかっていなかった。自分で自分の膝を持ち上げて、さらに首も上げて軽い腹筋状態の体勢で、大きく息をすったら10秒息を止めたままプッシュして、と言われるが、どこに向かってプッシュしたらいいのか最初はよくわからず。しかし迫りくる便意に任せて、とにかく運子をする感じで「いきんで」みる。実際、運子が出そうな感覚になると、看護婦さんが「ワーオ、いいわよ、いいわよ」みたいに滅茶苦茶褒めてくれるので、もうこれはでかい運子なんだという感じでふんばる。旦那が私の首を支えながら、これまた大きな声で10数えてくれるのだけれど、私のタイミングを全くみずに勝手にカウントし始めるのでイラッとする。


しかし30分だか1時間ぐらいプッシュしていたら、先生が「促進剤をいれているのに3時間プッシュしても出てこなかったら、帝王切開」みたいなことを言う。イヤー、切るのイヤー、絶対自分で出す!


11時からプッシュし始めてつきっきりでいてくれた看護婦さんは12時きっかりに別の看護婦さんと交代。あ、お昼ですか・・・。これは退院するまで思ったんだけれど、世話してくれる看護婦さんがしょっちゅう変わる。せっかくなんとなく打ち解けたり、様子がわかってもらえたと思ってもすぐ別の人が担当になるので、なんとなくそれは心もとなかった。


先生もしばらくしたら消えてしまい、看護婦さんがしばらくはつきっきりでプッシュにつきあってくれる。陣痛のモニターを見て、プッシュのタイミングを教えてくれたり、私も便意が来たら「今からプッシュするから!」といっていきむのだが、なんだかふんばってもびくともしないレンガのような巨大運子をしようとしている感じ。進展があるのか無いのかさえわからない。看護婦さんはプッシュするたびに滅茶苦茶褒めてくれるのだけれど、これって本気で褒めてないだろ・・という気分になってくる。


陣痛も思ったほど来てくれないので、とにかく早く出したかった私は、「陣痛来い!!早く来い!!」となんども言っては周囲の人達に苦笑され、さらに「運子が出る!」と言っては「それはよくあることだからいいんだよそれで」となんども言われの繰り返し。


しばらくすると、頭が見えてきたという。ものすごい髪の毛がいっぱいあると騒いでいる。これが、二児の父アキラさんが言っていた、「血だらけ毛だらけミートボールの出現」なんだ!と旦那も興奮。でもプッシュをやめると引っ込んでしまう。ここからまた気が遠くなるくらいプッシュして、頭がようやくみえてくる様になったらしい。しかしいきんでいるほうとしては、全く成果がわからないため、「本当に進展してるの?」といちいち看護婦さんに確認してしまう。こんなこといつまで続けるんだろう・・。ギリシャ神話では確か重たい石を頂上まで持って行くものの、最後の最後にその石が転げ落ちてしまうため、エンドレスでその石を運ぶ刑に課せられた云々、なんて話があったようななかったような気がするが、一生出ない運子をだそうと踏ん張り続ける刑もきついだろうな、などという考えが頭をよぎる。


しかししばらくすると、ダンディ先生がまたもどってきて、そろそろ生まれるよ、と手術服に着替え始める。全く実感がない。しかし便意だけはしっかりあるので、とにかく運子でる!運子でる!ばかり言い続ける。そこに旦那が耳元でこれまた大声で10数える声ばかりがわんわん響く。そんなこんなで、最後のほうはほとんど視界は狭まり、人生でこれだけ集中というか、必死というか、夢中で何かした覚えはない、というくらい、プッシュしまくっていた。


最後のほうは、体の中に挟まっていた大きな何かがとうとう出てくる感覚が!旦那がああ頭が出た!と騒いでいる。髪の毛がぼうぼうらしい。ここらへんは本当に無我夢中だったのだけれど、先生が途中で「ハイここでちょっとストップして」といって、旦那曰くパツンパツンとへその緒を切った。「あ、へその緒は旦那に切ってもらうことにしてたんですけど・・」というものの、ささっと処置をしてさらにプッシュを促されると、なんだかありえないくらい巨大な何かが自分の体の中からぶわっと出てきて、そして全てが終わった。旦那は小さいが出てきた!など色々言って感動していたが、私の出産直後の感想は、高校の友人ゆみちゃんが言っていたことは本当だ!「出産ってものすごいスッキリする!」だった。これだけ長時間踏ん張ってこんだけでっかいものをひねりだしたので、その後の爽快感といったら無かった。


普通出産直後に、新生児はカンガルーケアでお母さんのお腹の上に乗せてくれるはずなのだけれど、私の視界に入ったのはずるっと出てきたへその緒のみで、生まれたはずの小さいさんは、5人ぐらい向こうで待機していた別の病院スタッフのほうにつれていかれて、取り囲まれているのでどうも様子がわからない。泣き声も聞こえない。


自分も多少ハイにになっているので状況がよくわからず、「どうなってるんですか?」と先生にきくものの、先生は先生でそれには答えず、「胎盤だすからまたプッシュして」といって私のお腹をグイグイ押したりする。これがまた気持ち悪い。向こうでは、小さいをパチパチと叩く音がなんども聞こえてくる。ただし、処置をしている病院スタッフの人達は普通に話しながら処置をしているし、向こうでビデオを取っている旦那も、スタッフの人と普通の感じでしゃべっているので、あまり緊迫感はなく、大丈夫なのかなと思う。でも、すでに決めてあった小さいの名前をベッドの上からなんども呼んでいたように記憶している。


後で旦那が撮ったビデオを見てみたら、小さいがうぎゃーっと泣くまで、実に7分半ほど掛かっていた。首に二重にへその緒が巻き付いていて、生まれたての小さいは、青紫色で、ぐんにゃり仮死状態であった。先生が頭が出た途端にぱつんぱつんと切ったのは、首に巻きついていたへその緒だった。その上、色々なものを飲んでいたらしく、鼻から口から、なんどもチューブを入れて、中に詰まっているものを吸い出され、ばちばち叩かれていた。しばらくすると体に生気が戻り、ようやく目を開けて、最初は小さく、そして段々大きな声で泣き始めた。


スタッフの人が、「ホラこれがあなたの娘よ」といって遠くから見せてくれた小さいは、顔がものすごく腫れていて、なんだか朝青龍のようであった。泣き声が聞こえて、ようやく姿が見えたら安心したのか、私も一緒にわあわあと泣いてしまった。今でもこのビデオを見ると涙が出てしまう。よく頑張ったね、小さい。


こうして、我が家にとうとう待ちに待っていた小さいチャンがやってきました。3200グラム、48センチの女の子です。この人が私のお腹の中でずっとバカスカやってた人なんだ・・という実感があまりありませんが、自分や旦那に似ているのに全く別の人格がここにやって来たことが、未だに不思議でたまりません。小さいちゃん、陳家へようこそ。私達を親として選んだのは、なかなか興味深い選択だね。一体どうなることやら、こっちもちょっと心配なんだけど、これからよろしくね。一緒に愉快にやっていこう。