黄金のフルートを持つ男・フルート界の巨匠「サー」ジェームス・ゴルウェイさんのマスタークラスを聴講しました。今でも彼の色々な言葉が、頭の中でうにゃうにゃと渦巻いていて、頭の中がフルートでいっぱい。うわー。この日記は多分フルート吹きじゃないとわけわからない言葉で長く埋め尽くされそうです。
ゴルウェイさん・・・フルートを吹かない人の間でも、それなりに知られているフルーティストといえば、やはりゴルウェイさんなんじゃなかろうか。60年、70年代にカラヤンのもとでベルリンフィルの主席をつとめ、その後ソロに転向したアイルランド出身のおっちゃんは、アメリカンエキスプレスのコマーシャルだとか、セサミストリートにも出たりと、フルーティストとしてはメディアへの露出度も一番高いし、イージーリスニング風の曲も含め、ものすごい量のCDも出しています。
この顔にぴんときたら・・・
- アーティスト: ゴールウェイ(サー・ジェイムズ),モーツァルト,ゴールウェイ(レディー・ジニー),フィンチ(カトリン),シンフォニア・ワルソヴィア
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2006/12/02
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そんな巨匠がベイエリアにやってきて、ナパバレーでマスタークラスをやるというので、数ヶ月前から登録して、この日を指折り数えていたのでした。それくらい一大イベント!!朝一番でナパに車を走らせ、会場となるCOPIAへ。ここはワインや食文化に焦点を置いたイベントホールで、庭にはオリーブがたくさん植わっていたり、ジュリア・チャイルド(アメリカにフランスの食文化を紹介した有名なおばちゃん)のレストランがあったりと、こぢんまりしているけど、すごく素敵な場所!ここで朝10時から夕方5時ぐらいまで、みっちりとレッスンが行われたのでした。
会場は200人ぐらい入るかな、という場所だったのだけれど、入ったらこんな感じで「サー」がうろうろしていらっしゃる!わー、結構ちっちゃなおっちゃんや。
何より気になったのは・・・巨匠の靴。水色のジャケット、パンツに合わせてこんな水色の革靴なんて見たこと無いよ!!!(ちょっとぶれてますが・・)
このイベントの主催者さんたち、やっぱり「サー」がいらっしゃる!ということで結構てんぱっていたようで、イベント当日の数ヶ月前からもうたくさんのEメールが送られてきました。当日も、さぁはじめましょう!という巨匠をよそに、開会の辞を述べ始め、さらにゴルウェイの紹介も始めたりして、もう早く〜!という感じ(笑)。でもまぁ、何年に一度あるかどうかといった「サー」の巡幸ですから仕方ないですね・・「ほら時間が無いデスヨ〜!」と手持ちの時計を見せたゴルウェイさん、あら、これはiPhone??
最初はフルートの基本についてのお話(ここからは自分のためのメモです・・)。
- 練習にルーティンはありません!
基本練習と称して音階やエチュードをやるけれど、ルーティーンでこういうことをしても意味がない。確かに、スケールとかエチュードとか、つまんないんですよね・・・「こういうのを演奏していると、どんどん思考が別のところに行って、深く考え事しちゃったりするでしょう」・・本当にその通り!!練習だからと淡々とスケールをやってもそれはまったく意味を成さず、スケールであってもそれにどう表情をつけて音楽にしていくか、「Practice through investigation 」していくのが大事です!とのこと。スケールをひとつやったと思ったら、そのまま何かの曲のフレーズを吹いてみたりと、アドリブ的な練習方法を披露。とにかく色々な音を組み合わせ、音程を確認していく(結構フルートはキーによっては音程が不安定なのです)。そしてとにかく、Make it related to music.
- エチュードも考えながら
同じように、エチュードをやるときも、淡々とエチュードをこなしてハイ、終わり、にしていてはやる意味なし。エチュードというのは、フルートのあるテクニックの練習のために書かれたものであるのだから、何に焦点を置いて演奏するのか考えていかないと駄目なのです。Examine the aspect of flute. またエチュードの中には、あんまり意味を成さないものもあると、オリジナルの練習フレーズも披露。
- タファゴーに、モイーズ
偉大なフルーティストの忠告をきくべし。ということで、こういった練習教本はタファネル&ゴーベール、モイーズのみ。若い頃から使っているという、ボロ切れのようになったエチュードの本(というか、昔は「本」であったろうモノ)を持ってきて見せてくれました。
- 歌を歌うように・・・・
お友達であるパバロッティさんをはじめ、オペラ歌手の話がよく出てきました。胸を開いて、胸を張って、そして実際に曲を歌ってみる。他の楽器はどうかわからないですけど、結構フルートの人って、バイオリンを弾くふりをしたり、歌を歌ったりしてフレージングを考えたりしますね・・・。私はシャワーでよく歌います(笑)
- 低音のピッチ
高くなりがちなので、フッター抜いちゃったりするそうです。
- サポート
腹筋でサポートするというけれど、音は腹からだけ出るものでもない。アンブシャー→腹→アンブシャー→腹のループ。やぱり音のトーンを変えるにはアンブシャーを変えながら。
- 変え指
使わないそう。やっぱり正式な運指でのほうが音がいいから。
こうやって書き出してみると当たり前やんな、と思うようなことでも、やはり彼が話すとすごく特別に思えたりするのは、やはりゴルウェイさんだから、なんでしょう。やはり巨匠だけあって、話の端々に、わー、なんてエゴイスティックな!と思うようなコメントがあったりもしたけれど(「オーケストラの端っこで一生ぴーぷー吹いているようなセカンド・フルーティストに指導を受けてどうしますか!そういう人がずっとオケの端っこにいるのは理由があるんだから。私のいうことをききなさーい」みたいな。笑)、彼のフルートの音やテクニックを聞いていたら、そりゃおっしゃるとおりですわ・・と思えてしまう。
実は今まで、ゴルウェイさんの演奏、私はあまり好きではありませんでした。演奏が、というより多分彼の選曲が好きではなかったのかも・・・だって、CDとか買うと、タイタニックのテーマ曲、とか、「剣の舞」のメロディを全部フルートでやったりとか、あまりにチーズなものが多かったから(映画ロードオブザリングのフルートもゴルウェイさんがやってるそうな)。なので曲を勉強するときにも、彼のCDとかはほとんど聞いてきませんでした。でもやっぱり生で聞く音の美しさ、指使いのものすごさに、ああやっぱり巨匠や・・・とうっとり。
ゴルウェイさんはアメリカのフルート教育に関してもちょっと批判的でした。英語をしゃべるゴルウェイさんなのでついついアメリカに近い人、と思ってしまうのですが、スイス在住だし、パリのコンサバトリー出身だし、ベルリンフィルだし、何しろアイルランド出身だし、ヨーロッパ人ですものね・・。でも確かにアメリカ人の偉大なフルーティストって、いません。上手な人はいるけど・・・・、ルーティーンワークを重視するあたりが、成長をだめにしている、みたいなことをおっしゃっていました。そして「イタリアンスクール」のお話を結構されていました。フルートといえばやっぱりフランスかなぁと思っていたのですが、イタリアでのフルート・・ちょっと気になります。でもオペラを引き合いに出すあたり、結構Over the topの(に私は思えてしまう)ゴルウェイさんの演奏スタイルにぴったりなのかなぁ。
この後、フルートの先生らしき人、学生など6人の生徒が演奏して、ゴルウェイさんが個人指導。中にはニューヨークやフロリダから来た人も。ということは、やっぱり地元ベイエリアのフルーティストからの応募は少なかったのかなぁ・・・。などと、ベイエリアのフルート層の薄さを、また憂慮してしまう。
プーランクのフルートソナタ、ボエームのエチュード、シャミナーデのコンチェルティーノに、カルメン幻想曲など・・・自分がさらったことのある曲ばかりだったので、すごく勉強になりました。技術はあるけど、表現に改善の余地があるような感じの生徒さんが選ばれていた感じで、フレージング、表情のつけ方のアドバイスがたくさん(ただ6人のうち1人の生徒さんは、これはコンサバトリーレベルじゃないよね?というような感じの選曲&技術で、なぜ選ばれたのかすごく不思議で、その分巨匠からのアドバイスもすごく普通でした。ちょっと時間がもったいないな、という気もしてしまいました)。
やはり彼の前にかかるとごまかしがきかないというか、どきっとするほど核心を突くお言葉が多くて、それが今も頭の中をうにうにと渦巻いています。
演奏中に体をゆらゆら動かしてしまうことについて「このフレーズで動いてしまうというのは、何かをCompensateしようとしているということですよ(その子の場合は低音が弱かった)。とまって真実だけを見せてちょうだい!」(面白いことに、演奏中に熱が入って体が動いてしまうのは、アジア人の人ばかりでした。私もその傾向があって、試験のときに審査員の先生に注意されたことが・・。確かに見ているほうもゆらゆらしてしまうんですよね。ある女の子は、自信がない部分になると、演奏しながら片足が上がっていくのがわかって、心理状態が見えるようで面白かった)
コンチェルティーノのカデンツァの部分「あ、あなた今演奏しながら瞑想しちゃいましたね。でもここは、テクニックを見せる場所ですよ。」(どんな曲でも、カデンツァって演奏しているほうが気持ちよくなっちゃうことよくあります・・でも、気持ちよくさら〜っと演奏する前に、曲のフレーズや表情を考えないといけないんですよね・・聴いている人も一緒に理解できるように。)
ゴルウェイさん、4、5本ほど金のフルートを持ってきていて(総額にするといくらぐらいなんだろう・・)、時に生徒にそれを渡して「これで演奏してごらん」観客ため息!うらやましい!!!!生徒のフルートの音の出が悪いと、フッターのキーのところから息をふうふう入れて暖めていました。「気をいれてまーす」(笑)ゴルウェイさん、今はナガハラのフルートを吹いているそうです。このイベントもナガハラがバックアップしてました。
巨匠、結構グランピーな一面もあるアイルランドのおっさんなのですが、アイルランド訛りで自分のジョークにがははと笑ったりして、お茶目な部分も。でも教えるときはものすごく丁寧に、やることはしっかりやる、それに集中している。チャーミングだけど、余計なところにそのチャーミングさは使わない・・といった感じの人でした。なにしろ10時から4時まで立ちっぱなし、しゃべりっぱなし、フルート吹きっぱなしのぶっ続けでのレッスン。1時間の休憩以外では、ゴルウェイさん、トイレにさえ行ってなかったですよ。御歳68歳でこれはすごいよ。
そしてゴルウェイさんの奥さんが素敵な人でした。ゴルウェイさんよりだいぶ若く見えるのですが、彼女もニューヨーク出身のフルーティスト。偉大なフルーティストの奥さんが若いフルーティストとな、ということで、むむむ?と思う向きも多少あったりしたのですが、実際の彼女はとてもチャーミング。私にさえ親切だったし!ニューヨーク訛りが残ってるのもなんとなく好感が持てました。周囲へのお礼を忘れず、下手をするとご機嫌斜めになってしまう可能性のある巨匠をうまいこと持ち上げて、夫婦漫才をはじめちゃったり。世界中をツアーしたりして、巨匠とはいえしんどいこともあるとは思うのですが、ゴルウェイさんがご機嫌よくこうやってやっていられるのも、奥さんあってこそなのかもしれないなー、なんて思ってしまいました(のだめでも、ツアーの間中ミルヒーが色々わがままをいうシーンがありましたよね・・)。奥さんもフルーティストだったら、いつも巨匠の影になってしまったり巨匠の名前がついて回ることに不満もあるんじゃないかとは思うのですが、本当にナイスなサポーター。
実はクラスの間、ゴルウェイさん、フルートの頭部管のひとつを、譜面台の上にひょい、とおいたまま忘れてしまい、その上に楽譜をどさどさとおいてしまい、しばらくして「あれ、頭部管どこ?」なんてことがあったのでした。譜面台の上の楽譜を掘り起こして頭部管をひっぱりだしながら「奥さんには内緒ね・・・」だって(笑)
彼女は彼女で、マスタークラスの間、子供たちを集めて別室でフルートの指導をしてました。最後はそんな子供たちを集めて「あなた、子供たちとアンサンブルしてくれるわよね?」みたいな感じで、みんなで演奏。フラッシュ付写真撮影も何でもOK!の結構ゆるーい、いい感じの会でした。コドモと演奏するゴルウェイさんの図。
実はこのイベントの前日、何か変なものを食べたからか、それとも遠足の前日のコドモのように興奮しすぎてしまったからか、ほとんど眠れず2時間睡眠だったのですが、聴講しただけでしたが、本当に良い経験になりました。もう、クラスが終わったら走って帰ってずっとフルートを吹いていたい衝動に駆られました。最後にはご夫婦と一緒に写真とってもらい、自分が一番嫌いなタファゴーのエチュードの教科書にサインしてもらいました(これで毎日手に取るようにはなるかと思って・・・。笑)もう宝物!
月並みだけど、もっとフルート吹きたい!音楽に真剣に取り組みたい!がつがつがつ!とものすごく刺激された一日でした。本当に自分のつたない文章では書ききれないほど、色々なことを考えた一日。この気持ちがずっと続けばいいなぁ。