- 作者: 手嶋龍一
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1991/10
- メディア: 単行本
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戦闘機がサンフランシスコの上空を飛び交ったFleet Weekの後、しばらく飛行機熱が高じて、家の本棚に眠っていたこんな本を読んでしまった。ワシントンで働いていたころ、会社の本棚にあったのをもらったもの。
日本の自衛隊が持つ戦闘機をアップグレードしよう!という計画が持ち上がったとき、ゼロ戦を開発した誇りと伝統を持つ、日本のエンジニアのおっちゃんたちの間で、100%日本製の戦闘機を作ろうよ〜!ということでもりあがったらしい。何かプロジェクトXのようですね。
でももちろん、そんなことをアメリカが許すはずもなく。そうでなくても、80年代後半、90年代初めと、日本に経済の面で負けつつあったアメリカさんなので、日米安保のこともあるし!ここは、アメリカと日本で共同で新しい技術を開発しましょうヨ、というふうに話を持っていったのでした。しかし・・・・、戦闘機を動かす技術はアメリカが持っている。これをどういう形で日本に貸してあげるのかで、ものすごく揉めに揉めることになるのです。NHKの特派員だった手嶋さんが、そのときのことを取材したものをドキュメンタリー風にまとめてあります。
面白いのは、アメリカ政府の中でも、ペンタゴンは日本にやさしいのですね。いいじゃん、技術をちょっと貸してあげるのにそんなにやいやい言うことないじゃん!今までも結構そんな堅苦しい約束なしで、いろんな連携をしてきたんだし、というような感じ。やはりなんだかんだいって、日本とアメリカは軍事チャンネルを通じて、実務レベルでの信頼は積み上げられてる・・・・という部分が興味深かった。
それに対して、商務省などは、これ以上日本に有利になる技術を一方的に与えて、日本が戦闘機を開発するだけでなく、日本は政府と民間がぐるになってその技術を航空産業に流用したりするのを許せるかい!もっとアメリカの有利になるように話を進めないでどうするんじゃ!と食い下がります。それに今まで、商務省って二流省庁と言われていたので、これを機会にそれを見返してやるぜ!なんて思いもあったりしたようです。経済の面では、アメリカは日本に対して、冷戦時代のロシアや今の中国を見るような感じでのぞみます。
議会の中でも・・・、地元の産業を守りたい人、大統領や省庁に、議会の力を見せ付けてやるぜ!といきまく人などなど、色々な利害を持つ人たちがくんずほぐれつ、その間に日本の大使が人脈を使って入り込んだり、うわー、こうやって外交は繰り広げられているのか・・・という動きがわかる、興味深い本でした。結局最後は、政府の話し合いで済ませようとしたところに議会が横入りし、一通り大騒ぎした後で、共同開発ということで話はまとまります。後半部分は、大学生の苦し紛れの卒論の結びのような、迷走する日米同盟について大風呂敷的な記述が多かったのが残念。あれだけ国産戦闘機に思いを入れていた日本のエンジニアや企業のその後が知りたいなぁとも思いました。
戦闘機・・・ってハイテクの粋を集めて作られるものだから、やはりエンジニアにとっては夢なのかもしれないし、サンフランシスコの上空を飛んでいるのをみてかっこいい!とも思ったけど、結局は殺人マシーン。SFの上空を旋回していた輸送機だって、ベトナムではライフルをいっぱい積んで、禿山になるまで地面を撃ちまくるのに使われてたそうだし・・・。でもこの本に出てくるエンジニアや商社の人たちが、あまりに純粋無垢に夢のマシンとして戦闘機開発を語るのが、なんともいえない感じもしました。ゼロ戦を開発した会社なので、戦闘機開発はもう私たちの宿命なのです、みたいなことを熱弁していたけれど、戦闘機じゃなくてももっと便利なものを一生懸命開発するのじゃ、ダメなのかな?
やはりワシントンの空気を5年間吸った後で読むと、省庁や議会の動きが、ものすごくリアリティをもって読むことができてとても面白かったです。その事象を理解するには、雰囲気だけつかむのでもいいから現地に行け・・・というのは本当かも。ワシントンに越してきたばかりの時にこの本を一度読もうとして、話がややこしく感じて挫折してしまっていたから。ちょっと昔のお話ですが、あの特殊な街が懐かしく感じられる本でした。