愉快的陳家@倫敦

ロンドンで、ちょっと雑だが愉快な暮らし。

2025日本旅日記14:朝は取り組み、夜は地稽古

子供が日本でやりたかったこと、それは日本でお相撲を見ること。といっても夏は巡業がメインで国技館ではやっていないので、相撲部屋の朝稽古を見に行くことにした。

部屋によっては朝稽古の時間に行って、勝手に外から覗ける所もあるらしいが、最近はインバウンド向けのツアーも多い。実は私達が剣道を始めるきっかけになったのも、インバウンド向けの体験講座が楽しかったからだったので、ほんとに何でも行ってやって見てみないとわからないものである。

朝早く両国の駅前で集合して、部屋まで歩いていく。下町の中でも両国は道も広くてなんだか風通しがいい感じがする。感じがするだけで実際のところは知らんけど。訪ねた相撲部屋も、意外と建物がモダンでキレイな感じの所だった。

相撲部屋はお相撲さんが稽古する土俵の部分と、畳の上がりの部分があって、見学者は畳に座って見学する。中に入ると、お相撲さん達が15人位ストレッチやら筋トレやら思い思いに準備をしている。稽古場はそんなに広くなく、そこに大きなお相撲さん達がぎうぎうといる感じである。

それに対して見学する上がりの所には、気がつけば見学者が50人位は座っていたみたい。8割は外国人観光客だった。その中でも私達のグループは一番乗りだったので、一番前列に座ることができたのだが、実際座ってみると、眼の前30センチ位のところにお相撲さんのお尻が迫りくるのに圧倒されてしまい、うおぉぉとなって2列目に下がってしまった(笑)

さて稽古はまずはストレッチをしたり、四股を踏んだりする。びしっと揃ってやっているというよりは、結構思い思いにやっている。ぼーっと立っているだけの人もいたり、ひたすら柱に向かってテッポウと呼ばれる稽古をやっている人もいて、柱を叩く音が静かな稽古場にピチパチと同じタイミングでずっと鳴り続けている。剣道と比べたらいけないのだが、静かで妙にゆったりした空気感さえ感じる。

その後はすり足。すり足は剣道でもやるけれど、お相撲のすり足は当然ちょっと違って、もっと腰を落として手を押し出す感じでガニ股で前に進む。でも能を見た時にも思ったが、形は違えどすり足って日本の伝統芸や武道に共通するので、腰をいれる、股関節から動く・・という感覚が以前よりはわかるようになった気がする。

その後は実際の取り組みの稽古である。剣道で言ったら地稽古である。主にまだ下の段の人達の稽古で、髷を結うほど髪が伸びていない、まだ子供のような力士も何人かいる。中にはツーブロックの子もいる。そういう力士たちが何本も取り組みをやる。

取り組みで勝った力士を、他の力士達がまるで喧嘩相手をたしなめるようにワラワラと周りを囲む。最初は何だ、まあまあ落ち着け、みたいなことなのか?と思ったが、これは自分が次に対戦させてください、と名乗りをあげているっぽかった。ざんばら髪の若い子で強い子がいる。それが剣道偽息子にちょっと似ていたので、子供と二人で密かに応援する。

その日は親方はいなかったが、もう一人世話役というか、指導をする人がやはり上がりの所に座っていて、前に出ろ、肘伸ばせ、そんなんじゃだめだぞバカヤローなどと言っている。声は張らないので、なんだかお相撲さん達がぶつかる音だけが聞こえる静寂の中で、不思議な呪文を聴いているような気分になる。元力士だそうだが、そうだったとは思えないくらい小柄で細いおじさんだった。力士達はそんなゲキが聞こえているのか聞こえていないのか、表情も変えずに淡々と稽古は続く。

結構激しくぶつかるので、気がつくと色んな所から出血している。ざんばら髪の少年は鼻血を出して、鼻にティッシュをつめつつさらに相手に向かっていく。背中にひっかき傷だか出来て流血しているお相撲さんには仲間がティッシュを持っていって拭いてあげている。時々緩んだまわしの締め直しも助け合ってやっている。静かなんだけど、時々コソコソ談笑していたりして、何を話してるのかなぁと思ったりする。やっていることは違うのだけれど、なんかそういう所も剣道を思い出す。

取り組みをやらないで周りを取り囲んでいる力士は、ずっと立って見ているもの、筋トレしたりしているもの、あと一人先輩が荒い口調ながら色々アドバイスをしたりしている。この力士は髷は結わずにカチューシャしていて、まだ入って長くないのだとは思うがこの中では一番ランクは上らしい。年季の入った力士もいるけど、相撲ほど勝負の厳しい世界は無いですね。

最後はぶつかり稽古で、とにかく相手にどーん!とぶつかっていって、土俵のはじまでぐいぐい押していく。アメフトででっかいダミーにぶつかって押す練習みたいな感じである。これを何度もやっている。稽古の終わりにこれはキツイらしい。時には柔道の受け身のように土俵の上で一回転したりもする。一人取り組みの稽古中から呼吸がめちゃくちゃ荒くて心配になるくらいだった力士がいたが、もうこのぶつかり稽古でフラフラになっていた。

ぶつかり稽古のフィニッシュは、腰を落としてぐっと相手を押し出さないといけないのだが、疲れすぎてそれがどうしてもできず、何度もやり直し。そこで!そこで最後に!腰をちょっと下とせば!済むんだよ!と思うものの、もう心拍数が上がりすぎているようで呆然と空を仰いで立ち尽くしてしまう疲労っぷり。ものすごい荒い息が稽古場に響くし倒れないか心配になる位であった。中川家のモノマネで新弟子が稽古でヒーヒー言うネタがあるがもうまさにそれであった。

見た感じ厳しいシゴキに見えなくもないのだが、受け止める先輩も励ましながらやっているし、こういうのも剣道をやってわかったのだが、極限まで追い詰めてもどこまで心身を崩さずにいられるかは大事っちゃ大事である。呼吸のコントロールを頑張ってもらいたい(上から目線)。

稽古は2時間ちょっと見ただろうか、最後はストレッチして、電車みたいにみんなで連なって土俵をすり足でぐるぐる回っておしまい。土俵の上でみんな順番待ちながら稽古してるし、剣道の稽古で2時間ぶっ続けで打ち込んだり地稽古したり掛かり稽古したりするのと比べると(比べちゃいかん)相撲は一瞬キツそうだけど、実際ひとりひとりの稽古時間は短めなのかなと勝手に思ってしまったが、相撲の稽古はあまり長時間やっても怪我しそうだし、そういうものでもないのだろう。

これが格があがるとタニマチとのお食事会だなにだという予定も入るらしいので、そういうのもこなしつつ、自分でコツコツ稽古をして強くなるのもなかなか大変そうである。最後にはお相撲さんとピースで一緒に写真を撮ってもらった。本当は一緒にギャルピースしたかったのだが、他の家族もいたので断念。心臓発作を起こすのではと心配したお相撲さんは、稽古の後はすぐに普通に戻っていたので良かった。あとおもしろいのはメガネの力士が結構多いことで、稽古が終わったり自分の番じゃない時はメガネかけてた。

やっていることは全然違うのに、武道というだけでなんとなく通じるものがあるのも感じ、今までに無かった視点や感覚で見学出来たのは面白かった。その後ちゃんこならぬしゃぶしゃぶ食べ放題をみんなで食べて帰ってきた。

そして更にその日の夜にはまた剣道。御縁があって、ものすごい強い高校の剣道部の稽古に潜入させてもらったのである。とはいっても合宿の一部でOB/OGや関係者が参加する稽古会のようなものだったので、ゴリゴリに稽古したわけではなかったのだが、やはり日本の剣道の物凄さを体で思い知ったというか・・・。私は子供達にボコボコにされ、娘は爪を剥がしかけて足から大流血などのハプニングも(苦笑)

でもそういう強さを持っている所ほど、指導者の懐が深い感じをひしひしと感じ、監督さんから色々お土産を貰ったり親切にしていただいたり、子供は新しい友だちを作ったりと良い経験だった。そして部活をやっている高校生の爽やかなこと。学生時代全く運動部とは無関係だったので、もしもう少し運動神経よかったら違う世界が見えていたのかもしれないなあと思うなど。まあこの歳になってからでもやれて良かった。あと立派な体育館に冷房が入っていてよかった。というわけで、武道に浸かった一日でした。