泣きたくなるほど寒いサンフランシスコの夏。しかし今やっていることが煮詰まりすぎ、きぃぃと暴れたくなったので寒空の中プールに30分だけ泳ぎに行く。
夏休みなだけあって、プールはガキんチョどもでイモ洗い状態。監視員のお兄ちゃんも笛を吹いては走るな、飛び込むなと叫びまくりである。ラップスイミングのプールは水温を下げてあり(温水でもいいけれどまぢめに泳ぐとだんだん暑くなる)この寒いのに凍えてしまう。凍えるのがイヤなら泳ぐしかないが、あまりに混んでいて対向泳者をよけるのが大変。車の運転ではないが、おらおらおら〜早く泳ぎやがれ!とテールゲートをする。人が多いのでプールには絶えずさざ波がたつ。前に進んでいるのだか左右にゆらゆら揺れているのだかわからなくなる。
私のレーンにはむっちりとアブラの乗ったタコ坊主のおやじがいて、平泳ぎをしているのに鯨のようにざっぱーん!どっかーん!と物凄い音と水しぶきを立ててのっそりと進んでいく。後についていくと目の前があぶくで見えず、すれ違う段になってはしぶきを顔に浴びて辟易である。その先では、泳ぎに来たのか、若いアジア人の監視員の女の子をピックアップしにきたのか、ビート板で一生懸命バタ足をするおにいちゃんがしきりに監視員にアドバイスを求めている。隣のレーンで泳いでる兄ちゃんと無言で競争をする。コドモプールは台山語がわんわん鳴り響いて騒がしい。ガラス越しには、泳ぎ終わった子供を迎えにきたチャイニーズのおかあちゃんたちが、子供たちにまんじゅうやらパンを与えているのが見える。
600メートルぐらい泳いだところで寒さで頭が痛くなってあがる。ロッカールームは素っ裸のコドモやおばちゃんや姉ちゃんでまた一杯。お母ちゃんが台山語で子供たちにがーがー何かいっている。どうやら「あんたたち、ちゃんと洗いなさいよ!」といっているらしく、子供たちは嬉しそうにお尻ふりふりしながら両手でおケツを洗っている。あまりに寒くてへぐぢっとくしゃみをしたらチャイニーズのおばちゃんが「お大事に」。おばちゃんは素っ裸の上にストッキングを穿き(!!)タイトスカートを穿き、上半身裸でうろうろしている。なんだか大阪を思い出すのはなぜだろう。シャワーを浴びていたらお湯が出なくなって水になってきた。ぎゃー寒い。慌ててドライヤーで乾かす。鼻水がだらだらたれてくる。
鼻を拭き拭き出てくると入り口には警官が4人ほどやってきた。誰かが電話したらしい。でもプールの時刻表の紙を貰って談笑している。横には中学生ぐらいの男の子が不安そうに立っている。道を歩いていたら、不良グループみたいなのにずっと後をつけられて、金を巻き上げられそうになったので恐くなってプールに逃げてきたそうだ。不良グループはその後もプールの周りをうろうろしていたのでプールの人が警察に電話をしたのだと。夏休み、親がどっかに連れて行ってくれるわけでなし、子供たちも退屈そうだ。
外に出ると霧がもわーと出ている。東海岸にいた時は、コロニアル風のレンガ立ての家が立ち並び、歴史のある落ち着いた街並みの中を歩いていたけれど、ここでは電気バスの電線やらが空にごちゃごちゃと張りめぐり、ペンキの剥れかけた、角ばったアパートがぎゅうぎゅうと立ち並び、窓には洗濯モノがひらひら、小さな瓶のコカコーラを売っている街角の雑貨屋さんの看板などを見ながら歩く。するとふと幼稚園の頃の日本に戻ったような、イタリアかマルタか、どこか地中海のこきたない漁村に来たような錯覚に陥る。
あまりに寒いのでこきたない食堂の叉焼呑麺で温まる。隣には台山のおばちゃんたちがかしましくおしゃべりしている。あまりにうるさかったのに、おばちゃんたちの目の前に食事が運ばれて来るなり、神妙な顔つきでご飯を食べ始め、場が一瞬にして静寂に包まれた時のコントラストがおかしかった。