愉快的陳家@倫敦

ロンドンで、ちょっと雑だが愉快な暮らし。

カンタベリー

週末電車にぱっと乗ってカンタベリーに行ってきた。世界史で習ったカンタベリー大聖堂のある、中世のこじんまりした街だった。

カンタベリーはイギリスのキリスト教の中心地みたいなところ。7世紀ごろ、ローマ法王がここに修道院や教会を作り、カトリック布教のホームベースにしたのがはじまり。

その後わちゃわちゃあって、今はイギリス国教会の総本山になっている。って世界史でやったはずなのだけれど、綺麗さっぱり内容を忘れていた。うーむ詰め込み暗記受験勉強の功罪よ。

世界遺産にもなっている大聖堂は、礼拝の真っ最中で、大聖堂にはそれはそれは美しい歌声が響いていた。パイプオルガンと讃美歌を聞きながら、歴代の大司教やら貴族やら地元の名士やら戦没者やらが壁に埋葬されているのを見て回る。

こういう教会って、教会の地下とか壁にどーんと石の棺が並んでいて、その中に黒王子とか、普通に歴史上の人物が入ってたりするので、ちょっとヒ~っとなる。

戦没者の慰霊碑は、その土地の部隊ごとに作られていることが多いので、その街の部隊がどこで戦ったか、土地の教会に行くとその傾向があったりする。ここでは植民地時代のパンジャブ地方やアフガニスタンでの戦没者慰霊碑がたくさんあった。自転車部隊なんていうのもあった。

しかしこの大聖堂に埋葬されている一番の有名人はトーマス・ベケットさん。1100年代にカンタベリー大司教だった人。

当時の王様ヘンリー2世のお友達で、王様は仲良しのベケットさんを大司教にして教会を思い通りにあやつろうとしたのに、たいして信心深いわけでもなかったベケットさん、いざ大司教になったらその使命に燃えてしまったらしい。政治が宗教に口出しするの、やっぱりあきまへん、と王様の要求をことごとく突っぱねるようになっちゃったのだとか。

その後もわちゃわちゃ色々あった後、王様が「ベケットやっぱりあいつムカつくわ」と言っているのを小耳にはさんだ騎士数名が、気を利かせてベケットさんを勝手に殺しちゃったからさあ大変。

ベケットさんはカトリック教会によって聖人になり、ヘンリー2世は彼のお墓の前で、ボロボロの服を身にまとい、そんなつもりじゃなかったんだよゴメンナサイと謝罪を余儀なくされたんだそう。

そんなベケットさんが殺された現場には今もろうそくが立てられている。騎士がやってきた時、広い大聖堂のどこかにうまく隠れていれば殺されることもなかったのに、わざわざ騎士の前に出てきちゃったベケットさん。

今殺されたら聖人になれるチャンス!と思ったとか、やれるもんならやってみな!とチキンゲームよろしく煽ってみたらそれが裏目にでちゃったとか、色々説はあるらしい。いずれにしても、斬られたおかげで大聖堂は聖人スポットとして、巡礼地としても賑わうようになったとか。

チョーサーのカンタベリー物語も、このベケット詣でに行く人達が、旅の途中暇つぶしに披露した色んな話を集めたもの、という体になっている。

古い教会を改造して、中世の街並みと、カンタベリー物語の一部を人形と音声で紹介してくれるようなアトラクションもあった。当時の人になりきったガイドさんが案内してくれるのだが、この教会の中が薄暗いうえに、本当に中世の時代かと思うような臭いがしたりして、なかなか凄みあり。

中世の時代、排泄物は窓から外に投げ捨てたり、風呂も年に1度入るかどうかだったというから、今となっては雰囲気のある中世の街並み、ロマンチックで素敵♥などと言えるものの、当時の悪臭はいかばかりだったかと想像すると、たまらん。


ボートにも乗った。川底が透き通って見えるほどきれいなこの川も、昔はウンコまみれだったそうで、魔女裁判にかけられた者や、軽犯罪を犯したものは、この川に漬け浸しの刑にされたそうな。ボートを漕いでくれた、真冬の天気で寒いのに半そで短パンの若いお兄ちゃんが、カンタベリーの歴史をまるで見て来たかのように色々と教えてくれた。

創業1500年などというパブも残っている。当時の人達の平均身長の低さが想像できるような、傾きかけたような古くて小さな建物も随分残っている。そこに入っているのはチェーンのイタリア料理店だったりするのだが、中世の入れ物は残しつつ、そこに現代が共存している。

大聖堂でも、何百年という歴史に囲まれながら、地元の人達が普通に礼拝に参加していた。礼拝が終わると女性の司祭が出口で皆さんひとりひとりと握手したりハグしたりしながらお見送り。仲良くおしゃべりしながらこの後コーヒーでもどう?などと話していたのがとても印象的だった。

脈々と続く歴史の延長線上にある地元コミュニティ。特に宗教を持たない自分にとって、これまた数千年続くキリスト教という、ある意味任せて安心的な大きな箱の中に、みんなが心地よさげに入っている様子は、なんとも楽そうだなぁ・・・、というと語弊があるけれども、どのコミュニティにも深く根ざさず、好き勝手にフラフラしているわが身と比べると随分対照的な世界に見えたりもしたのだった。

そんな深い歴史の街カンタベリーの駅前にはアジア食品店とインド中東食品店があったので、イギリスではそこまで簡単には手に入らない大根を1本買ってまた電車に乗って帰ってきました。

ヨーロッパはやはり、教科書でしか知らなかったような場所を実際に見て、歴史を感じることができるのがやっぱりいいですね。