愉快的陳家@倫敦

ロンドンで、ちょっと雑だが愉快な暮らし。

病院で不夜城


前日貧血でひっくり返ったおとうちゃんに付き添って半日病院で過ごす。といってもお父ちゃんは至って元気なのだが、主治医のOKが出ないと退院できず、肝心の主治医は週末なので翌日までは出勤予定無し。よって中国語のぼうちー(報紙)を読んだりおしゃべりしたりおやつを食べたり、病院のフロアをうろうろうろうろ散歩してみたり、病室で家族団欒。


となりのベッドには白人のお爺さんが入院していたけれど、一人でいるときにはうなったり悪態をついたりするので、お父ちゃんはこりゃおかしな人と同室になったと思ったらしい。でもしばらくしたら娘が見舞いに来て、そうしたらうー、あー、といいながらもぼそぼそとしゃべり始めた。そして次に昔の同僚だか何だか、元気な年寄りの男どもがどかどかと見舞いに来ると、突然快活になってまるで別人のように普通に話し始めた。やっぱり人間は他人からの刺激があったほうがしゃんとするのだなぁと感心してしまった。


退屈だったので図書館で借りた「不夜城」を読んだ。金城武で映画にもなったこれ↓


不夜城

不夜城


ベッドの上からお父ちゃんは目ざとくそれを見つけ、何、「ちゃうしんちー」が書いた本なのか?ときくので、いえいえ、これは「ちゃうしんちー」のファンだという「ちーしんちゃう」という人が書いたのよと説明する。台湾人と日本人のハーフのお兄ちゃんが、歌舞伎町で非情に生きていく様を書いたお話。本の表紙には、鉛筆書きで『群を抜く不気味な迫力のある本。だけど醜い話だから御注意。セックスシーン少なし See P.157 & P.164』と昭和生まれの達筆でわざわざ感想とも忠告ともセックスシーンがすぐ読めるような親切ともつかないことが書いてあったのが可笑しかった。


救いようのないアンダーグラウンドの世界の話は、華僑として似たような境遇にあったある友人を思い出させたり、思うことは色々。でも関係ないけれど、この『醜い話』の中に出てくる数少ない食事シーンで、残留孤児2世として登場する夏美という女性が、新宿界隈のレストランでがつがつとご飯を食べるシーンが何回かあって、それが妙に印象的だった。がつがつ、もりもりとご飯を食べる人は、何か生きるためにご飯を食べているという感じがして、結構好きだ。おされなレストランで気取ってご飯を食べるより、がちゃがちゃした中華料理屋の雰囲気が好きなのも多分そのせいかもしれない。背中を丸めて、手にすっぽり入るくらいの小さい茶碗に入った飯の上に、おかずをぶっ掛けてかきこむように食べたり、お箸を振り回してがーがーしゃべるのも、なんだか好ましい感じがしてしまう。うちの義理のお姉ちゃんも、普段はお上品にご飯を食べているけれど、両親の中華料理となるととたんに猫背になってご飯を掻きこむ。でもなんだかそれがイヤな感じがしなくてとても良い感じなのだ。


これを読んだらやっぱり夕食は中華料理が食べたくなり、帰りにサンフランシスコの唐人街(ほんいーがい)に寄ってしまった。ここも観光地のようだけれど表の顔と裏の顔がある世界。最近もサンフランシスコの経済委員をやりつつ合勝堂(ほっぷしんたん)の元老もやっていたオオモノが暗殺されたばかり。しかも関係者がみな口をつぐんでいるというから、小説にあるようなやり取りがあっても不思議ではないのかなぁ・・・などと、子汚いけれど風水でばっちり決めた食堂で、でっぷり太った店主が持ってくる麺をすすりながら思ったのでした。