愉快的陳家@倫敦

ロンドンで、ちょっと雑だが愉快な暮らし。

[dining] 日本の伝統テパンヤーキ


友人JT君の誕生日。テッパンヤキが食べたいというので、みんなでなぜかジャパンタウンの「ベニハナ」に出かけた。アメリカ人は日本食というと、スーシ、テンプーラ、テリヤーキ、そしてテパンヤーキである。


日本でもフランス風とか、おしゃれで高級な鉄板焼の店はあるみたいだけれど、アメリカ人にとってのテパンヤーキは、ニンジャかサムライのようなシェフが目の前で料理をしてくれる、オリエンタルでエキゾチックな食べものなのである。


パンヤーキのシェフは、頭には赤いシェフ帽、首には赤い手ぬぐい、そして腰にはカウボーイのホルスターベルトといういでたちで登場する。その腰ベルトには、ニッポンの伝統サムライに敬意を表して大きなクッキングナイフが挿してある。そして子連れ狼のごとく食材が入ったカートを押して鉄板の前にやってくる。


シェフは料理の間中、「コノエビ新鮮ネ、コレイタメルアルネ」とかいいながら、ニンジャのようなハヤワザで肉を切ってみたり、エビをぽーんと宙に放り投げてみたり、鉄のヘラをカンカンと鉄板に打ち付けてお手玉をしたりというエンターテイメントを繰り広げる。食べものを使ったアクロバットに、特にコドモは大喜び。そして日本と中国の区別がつかないアメリカ人の頭の中には、「じゃ〜ん!」と銅鑼の音がなり、中国風の「ちゃちゃちゃちゃちゃっちゃ、ちゃっちゃっちゃ〜ん(わかる?)」という音楽が鳴り響くのであった。


初めてのテパンヤーキの店に行ったのは、学生時代オハイオを訪ねたとき。アメリカ人夫婦に「日本食が恋しかろう、故郷の味を味わわせてあげる」と連れて行かれた先が、店の中に鳥居があり赤い橋がかかり鯉が泳ぎ、スタッフの間では中国語が飛び交う地元のテパンヤーキの店であった。ニンジャの末裔、テパンヤーキのシェフはたいていが中国人やヒスパニックである。


アメリカ人夫婦は私のためにわざわざ「天皇コース」を選んでくれた。天皇コースは「将軍コース」より格が上で、牛肉とチキンと魚介類と野菜、全種類を料理してくれるという豪奢極まりないものである。ニンジャシェフはそれを華麗なヘラさばきで炒め、さらに見とれるようなナイフさばきで、ほとんどみじん切り状態に切り刻んでくれる。天皇陛下の名のついた懐かしい故郷の味は、肉も魚も野菜も全部テリヤキソースの味がする茶色い炒めものであった。


こんなテパンヤーキだが、アメリカ人には結構人気で、誕生日などの特別な日に利用している。誕生日だというと、ウェイターやウェイトレスが文字通り鐘や太鼓でもってどんどこどんどこ、「シアワセナラテヲタタコ!シアワセナラテヲタタコ!シアワセナラ○×△?※◎(ここらへんから怪しくなる)ラララララ〜、シアワセナラテヲタタコ!」に続いてハピバスデーを歌ってくれ、ポラロイドで写真を撮ってくれる。日本伝統の陶器で出来た布袋さんの頭に突き刺さったロウソクを吹き消して、抹茶アイスクリームで閉めればちょっと日本に小旅行をした気分にもなるというものだ。


この晩も、平日ではあったが誕生日のグループばかりだったらしく、四六時中どんどこどんどこ、鐘と太鼓と怪しい日本語の歌がここそこから聞こえてくる。バッチェロレットパーティー(結婚する前に花嫁が女の子ばかりで集まるパーティー)で来ているグループのほうから雄たけびがするので目をやると、女の子の一人が髭のシェフにぶちゅぅーとディープキス。シェフはその後1時間ぐらいはずっとニヤニヤしていたのは言うまでもない。


私たちのテーブルを担当したシェフはちょっと伏目がちなヒスパニックのお兄ちゃん。腕はいいのだが盛り上がりに欠ける兄ちゃんで、私たちは兄ちゃんが色々な小技を控えめに披露するのを横目に勝手におしゃべりに興じてしまった。しかし高級茶色い炒め物・どれも同じ味、ミディアムレアといってもしっかり火の通ったステーキが出てくるのを期待していた割には、意外にもオヌシ、鉄板の火加減を心得ておるな!という感じのものが出てきた。それでもこれで2、30ドルは高いよな・・・と思うが、徹底的にシェフをいじってみたり、幸せなら手をたたこうを本意気で歌ってみたり、一種の集団ボケみたいな感じで行くと楽しいところではある。