愉快的陳家@倫敦

ロンドンで、ちょっと雑だが愉快な暮らし。

ペルセポリス


Persepolis: The Story of a Childhood (Pantheon Graphic Novels)

Persepolis: The Story of a Childhood (Pantheon Graphic Novels)

Persepolis 2: The Story of a Return (Pantheon Graphic Novels)

Persepolis 2: The Story of a Return (Pantheon Graphic Novels)


パリ在住のイラン人イラストレーターの女性が、自分の子供時代を振り返った、グラフィックノベル。すごい話で、2冊とも真夜中までかけて一気に読んでしまった。


中東の歴史や政治って、教科書や本で読んでなんとなくわかったつもりになっていても、やっぱりそれは外から見たものでしかなかったりする。でも実際にそこに生まれ育った人の視点で、しかも漫画という形で描かれたものを読むと、急にそれがリアルな形でわかってくるような気がする。子供の目を通じて見たイラン革命、そしてイラン・イラク戦争。親戚が連行・投獄され処刑されたり、宗教警察の目を盗んでジーンズを買ったり家族でパーティーをしたり、イラクからのスカッドミサイルから逃げ回ったり・・・。作者は最後にはこの国にいても将来がないことを心配した両親によって、14歳でオーストリアに送り出されるのだけれど、そこでもたくさんの苦労をして帰ってくる。


自分の過去を語ることがそのままその国の歴史や政治を語ることになる、という状況はいつもとても痛い。昔少しお世話になったニューヨークの職場には、イスラエルパレスチナ出身の同僚もいたが、私と同い年の彼らの話もすさまじかった。隣の家にミサイルが打ち込まれて人がたくさん死んだり、小学生のときから、それこそ投石をして何度も牢屋に入れられたと。この本の作者もだけれど、このような環境で育った彼らも、小さな時から政治のこと、国のこと、人の幸せや生と死について強烈に考えていて、とても強い意思と意見を持った人たちだった。


思えば私が子供の頃、両親が政治や国の今後について、イデオロギーについて語りあっているところなんて見たことがない。子供ながらに社会の不平等を強く意識したり、周囲からいつ理不尽で冷酷な死が襲い掛かる心配を絶えずしたり、自分の国から逃げないといけない、なんてことを考えることもありえ無かった。だから、ただのほほんと子供時代を育ってきた自分の前に、彼らのすさまじい過去と鋼鉄の意志を示されてしまうと、もう何も言えなくなってしまっていた。私と同じように、やっぱり「平和なところでのほほんと育った」ニュージーランド人の女の子も同じように恐縮していたけれど(笑)。


強烈な経験から形成された考えに突き動かされ、前に進んでいる彼らを見ていると、呑気に育った自分の存在価値がよくわからなくなることがあった。でも、世の中から戦争や弾圧や衝突が無くなることはつまり、私のようになーんも考えず、大して役にもたたないが、人間の暗黒な面をそれほど見ることなく、へらへらと幸せに大きくなることができる人が増えることなのかな〜、などと鼻を掘りながら思うのであった。多分それはいいこと、ですよね。


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ペルセポリスI イランの少女マルジ

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ペルセポリスII マルジ、故郷に帰る

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