愉快的陳家@倫敦

ロンドンで、ちょっと雑だが愉快な暮らし。

あこがれのデリー


"City of Djinns: A year in Delhi" by William Dalrymple


この人のように旅ができたらいいのにな、と思う。これはスコットランド人の著者が、新婚の奥さんと二人でデリーに1年住んだ時の本。といっても旅行記というわけではなく、著者が体験したことだけでなく、オールド・デリーに住む人々の物語が、何世紀にも折り重なって語られる。


著者はムスリムの賢人に古典を習い、若ハゲ治癒祈念をと大家のおばちゃんに進められてヒンズーの神様をお参りに行ったりする。でも単なるガイジンの海外体験記に終わらず、1年間デリーで色々な人達の話を聞き、歴史を学ぶ課程で書かれた本なので、奥が深い。


著者の奥さんの先祖が、ウィリアム・フレージャーといって、東インド会社設立前にインドに渡り、英国の社交界とは離れ、ペルシア語を読み、ムガル貴族の生活を送った人らしい。著者は避暑で訪れるスコットランドのフレージャー家の屋敷の書斎で、当時の書簡を山盛り見つけ、それを片手に彼の記憶をたどってデリーの旧跡(そしてもちろん旧跡は現在も使用されていたりする)を巡り歩くところが興味深かった。


植民地というものは、色々な足跡や傷跡を残すものだけれども、今でもインドでは、そんなイギリス人の末裔が住んでいたりする。アングロ・インディアンと呼ばれたりする人達は、インドが独立した後、イギリスに戻らず(戻れず)、オーストラリアなどに移住したりもしたそうだ。インドとイギリスの間でアイデンティティに揺れる様は、読んでいておかしくもあり哀しくもあり。元上流貴族のおばあさんが掘っ立て小屋に住んでいたりする。そういう過去の生きた断片を、古代からの記憶が脈々と続く都市で見つける、という部分にわくわくした。


インド会議の時、ニューデリー出身のタクシーのおっちゃんとこの本とデリーの話で盛り上がった。「デリーは何度も破壊されて何度も再建されてを繰り返してきたんだよ。でもインド中から全てのものが集まるところなんだ、是非一度行きなさい」


行ってみたいです。いろんな都市に2年おきぐらいに住んで、その土地のことを学び、ものを書いて過ごせたらどんなに楽しいかなー。