愉快的陳家@倫敦

ロンドンで、ちょっと雑だが愉快な暮らし。

ビッグナイト

リストランテの夜 [DVD]

リストランテの夜 [DVD]

  • 発売日: 2014/09/10
  • メディア: DVD

ダンナの実家は家族経営の小さなレストランをやっていた。そのせいか(いや絶対そのせいなのだけれど)、うちのダンナはDCにいても、中華料理屋やインド料理屋など、いかにも家族経営零細企業のレストランのことをとても気にしている。外を歩くたびに店の中を覗き込み、ちゃんと客が入っているかチェックしないと気がすまない。


「ああ、金曜の夜なのにこれしか客が入ってない・・・」とある中華料理屋を覗き込み落胆するダンナ。「大丈夫だよ、きっとテイクアウトの注文が沢山来てるって」と何故か私が激励役に回らなければならないこともしばしば。贔屓にしているが、あまり客の入りが良くないインド料理屋の前に、インド人の大家族が通りかかった時などには「やった、きっとあのレストランに行くに違いない」と彼らの行く先をじっと見送るだんな。しかし彼らが入っていたのは隣にあるKFCだったりする。


外食するにあたっても、ダンナは時々、閑古鳥が鳴いているような店に入ろうとすることも多い。客がいないということは、それ相当の食事しかでないってことなんだよ!と私が反対しても、何か身につまされるものがあるのか、今日も空席の多いレストランに吸い寄せられていくダンナ。


確かに客の少ないレストランはマズイのだけれども、中には素晴らしく美味しい料理を出すところもいくつかあって、なぜ人が来ないのか不思議になることも多い。我が家の近くのあった中華料理屋は、メニューこそアメリカ人向けになっているものの、「料理人が強火の使い方を解っている!」という感じで、これ以上フレッシュで美味しい(アメリカ式の)中華料理は食べたことがない、というくらい感動的な料理を出していたのに、40人は入ろうかという席はいつもがらがらだった。


私達は中華を食べようという時には、まるでチャリティをしているような気持ちで、その店にせっせと通っていたのだけれど(もちろん美味しかったし)、閑古鳥はなきやまず、とうとうその店は別の中国人一家に買い取られ、それと同時に炎の料理人もやめてしまったようで、どうしようもないギトギトの料理を出すひどい店に変わってしまった。辛い思い出である。辛いついでに、現在その店は3人目のオーナーに代わり、ギトギト料理を出しながらもそれなりにやっている模様である。結構近くの学生や、そこらへんの店やオフィスで働くアメリカ人が利用しているようで、アメリカ人の味覚なんて結局そんなものなのね、と悲しくなるのだった。


競争も激しくて、住宅地であるうちの周りでさえ、歩いていけるインド料理屋が3件、中華料理屋は6件、イタリア料理屋も6-7件ぐらいある。うちの近所ではないが、インド料理屋が3件、隣同士で並んでいるという、共倒れは必死の立地条件でやっているところもあったりする。もちろん競争という点では東京やニューヨークのような大都市ほどではないだろうけど、父ちゃんの料理の腕一本で移民一家が支えられている世界をよく知るだんなにとっては、切ないこと限りないわけなのでした。


そんな移民二世の我が家のお気に入り映画の一つが「Big Night(リストランテの夜)」です。ニュージャージーの片田舎でレストランを出すイタリア移民兄弟の物語。ちゃんとしたイタリア料理をだす彼らのレストランは、味覚音痴アメリカ人には解ってもらえず閑古鳥。リゾットを注文してみた客は一口食べて「ミートボール入りスパゲティーは無いの」。「そんなものは無い!しかも炭水化物の後に炭水化物を食べるっていうのか!」と職人気質の兄逆上。一方ライバルレストランは、スパゲティーミートソースだ、ミートボールだと、「アメリカ人の味覚にあった」ギトギトレッドソースのイタリア料理を出して大繁盛。彼らの厨房を覗いて「あれは食べ物に対するレイプだ!!」と憤慨する弟。


閑古鳥のレストランを救うために、彼らはライバルレストランのオーナーの薦めもあり、ある晩一大パーティーを開くことになる・・・というのが映画の筋なのですが、夢を持ってやってきたものの、なかなかアメリカになじめない頑固な兄と、もうすこしフレキシブルにやりたい弟、そして葛藤しながらも、二人で力をあわせて最後の「Big Night」で作られるものすごいご馳走、そして宴の後の何ともいえない静かなエンディングと、とてもオススメの映画です・・・が、我が家ではなんだか身につまされながら見ている・・・というのが本当のところかもしれません。


さて金曜の夜は、外食しようということで、近所に出来た新しいイタリア料理屋に立ち寄ったのだけれど、若い人でいっぱいで入れなかった。仕方が無いので評判は良いのだけれど、住宅街の閑散としたところにあるために行ったことがなかったイタリアレストランへ行って見た。オーナーは愛想のいいイタリア人のオジサンで、お店はバーやちょっとしたパーティーができるダイニングルームが別についてざっと60人は入れるといったところ(結婚式の準備以来、レストランの収容人数をチェックする癖がついてしまった)。でも、お客さんは私達も入れて10人もいない。


メニューは超イタリアの家庭料理という感じで、猪のソーセージとほうれん草のバルサミコ酢ぞえと、ペストをいただいた。お値段もお安いのに、味はとっても良い。これで金曜の夜にこれだけの客入りとは、ううむ・・・。


とそこへ黒人カップルが来店。メニューを熱心に見ていた二人だけれど、突然隣の席にいた私達に「ここらへんで宝くじ売ってるところ知らない?」聞くとニュージャージーの田舎から遊びに来ているとのこと。しばらくメニューを眺んでいた二人だが、注文をとりにきたウェイトレスに「ハイネケンとVO(安いカナダウィスキー)のショットくれ」「サラダにはロシアンドレッシング(ケチャップとマヨネーズを混ぜたもの)つけて」・・・固まるウェイトレス。それに追い討ちをかけるように彼は言った「ミートボール入りスパゲティないの」


その晩、私達はしばらくそのレストランに通うことを誓ったのでした。