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仕込みが終わり、一人高級まかない飯を食べた後で厨房に戻ると、またカナッペ(前菜)セクションに呼び戻された。
このセクション担当は、ちょび髭のポルトガル人C君と、黒縁メガネの今時のワカモノT君、そして時々手伝いに下っ端19歳のS君が入る。
材料の準備が済んだ後、C君が色々な前菜のプレーティングの仕方を教えてくれた。まずステンレスの台の上にテーブルクロスを丁寧に折りたたんで置き(すべり止め)、その上に皿を並べる。
最初に教わったのは、お客さんがラウンジで待っている間にお出しするアミュゼの盛り付け。
(前週お客として食べに行ったときに撮った写真)
四角い箱になっている皿の中は玄米が敷いてある。
そこに人数分の、パリパリに焼いてある鶏の皮を置き、スクイーズボトルに入っている自家製マヨを水玉模様に置く。
その後、プラスチックの容器に入っている、卵の黄身の燻製をおろし金でおろして上からかける。
また台の下の引き出し冷蔵庫に入っている小さなゴートチーズのマカロンも人数分並べる。
セビーチェは、注文を受けてから、冷蔵庫に入っている材料をいちいち取り出し、作業台の上に置いてあるソースに混ぜて少し置いてから、れんげに盛り付ける。
セビーチェはライムの酸味で殺菌効果もあるんだよな・・と思い、注文が来てからちょちょっとマリネしてからじゃ遅いし味がしみない気もするし、最初に全部マリネして置いておいたらダメかと聞いたけれど、注文を受けてから混ぜろとのこと。ふーん。
アミュゼの他に、うなぎ(イギリスでもうなぎを食べる)のプレート、カモのプレート、サーモンのプレートなど、前菜メニューの中から数種類盛り付けを教えてもらった。
当日写真を撮る余裕などほとんど全く無かった。これはお店のインスタから。そうこうしているうちに、お客が入ってきたみたい、伝票の機械がジージー音を出して、注文を吐き出し始める。
アミュゼの四角い容器が私の前に3つほど並べられ、こっちは3人分、こっちは4人分、こっちは2人分作って!と早速丸投げされる。
お、おう・・・とさっき教えてもらった方法を反芻しながら鶏の皮を並べ、マカロンを並べる。マカロンを容器から出してみると、形が崩れてるのとか割れてるのとかクリームがズレてるのとか、結構使えないのが多い!!とりあえず壊れてるやつをいくつか廃棄。
盛り付けが終わると、その皿を配膳台に置く(下の写真の台・・なんて呼んでいいのかわかんないけど窓口みたいになってるところ)。
ここにはスーシェフが待ち構えていて、オーダーの確認、料理の進捗状況のチェック、出来た料理の内容チェックをする。
私が最初に持っていったアミュゼは、セビーチェの上に載ってるハーブが多すぎ、とちょっとハーブを取り除かれた。家庭料理の感覚で、セビーチェにしろ薬味にしろ、どうもどばっと山盛り置いてしまうのだけれど、こういうレストランではハーブの葉っぱは1〜2枚とか、本当にちょびっとしか使わない。
チェックが済むと、ウェイターがさっと持っていく。
そうこうしているうちに、食事のオーダーも入って来る。スーシェフが「オーダー、肉3、魚4・・・」と注文をずらずらと読み上げ始める。そうすると全員がビストロスマップみたいに「Oui~!!!」と叫ぶ。おおお、さすがおフレンチレストランや!
注文が入るたびにこれが繰り返され、蒸気と熱気がこもるキッチンから「うぃ〜!」の声があがるが、「ウィ、ムッシュ!」と歯切れよくというよりは、なんだか野球部の練習の時の声がけのような、滅茶苦茶威勢は良いが間延びした感じである。
その返事もなぜかだんだん「うぃ〜」ではなく、「うぃらぁ〜!」と、野球部がノックの練習でもする時に言いそうな意味不明な音声に近くなってくる。
ありゃなんだったんだろう・・・って、その時に聞け!って話であるが、次から次へと伝票がジリジリと出て来るので、本当にお喋りしている暇なぞ全く無かったのであった。
注文が入るとオーダー何人、ってスーシェフが読み上げ始めるので、その数字を聞いてアミュゼの盛り付けをだーっとやっていく。結局その日のお客さんのアミュゼ、8割位は私が並べたと思う。
とにかく慌ただしい雰囲気の中、自分もすごく集中してプレーティングをしていたみたいで、途中ものすごいトンネルビジョンになっていることに気がついた。こんな集中力、出産でいきんだ時以来じゃないだろうか・・・!
それにしてもキッチンは滅茶苦茶暑い。さらに私、ロンドンに観光客として滞在して既に2週間ちょっと、前半飛ばしすぎてロンドンの街を毎日何キロも歩き回っていたので、後半になって実はだいぶ疲れがたまっていた。キッチンに立っているとアドレナリンがどわーっと出てそんなことも忘れていたけれど、4時間ほど立ってふっと気がついたら頭がグラグラ・・・。
C君にみ、水・・・と訴えると、その後スパークリングウォーターの大瓶を何本も持ってきて飲ませてくれた。ぶっきらぼうっぽいけど実は優しいC君なのである。
アミュゼが一段落すると、前菜の盛り付けも手伝う。最初は頼まれた分をやっていたけれど、タルタルなどの盛り付け方はだいたい覚えたので、自分ができる料理のオーダーが読み上げられると勝手に皿を並べ、率先して仕事できるようになった。
前菜はどれも盛り付けに必要なアイテムが一皿に最低8種類ぐらいはある。そしてその材料が、キッチンのあちこちに点在している。
材料は料理別というより、食材(ハーブとか肉とか)別に格納されているので、一皿作るのにあっちこっちに行って材料を集めないといけない。
そして目指す引き出しや扉の前には他の人が立ちはだかって作業をしていたりするので、「ちょっと、右に3歩ずれて!」とか「後ろ通ります!」とかいちいち叫ぶ。
うなぎの皿には、ちょっと和風テイストも加える感じで、冷凍してあるワサビの根っこをおろし金でおろしてかけるのだけれど、厨房にはなぜかおろし金が一個しかない。別のメニューで卵の燻製をおろすのと共用である。それをあっちこっちで誰かが使って置いておくので、おろし金どこだ、貸せ、といちいち騒がないといけないw
ようやく奪還したおろし金で必死にワサビをゴリゴリおろしていたら、おろし金の部分が枠からぼこっとはずれて皿の上に落ちた。ギャー!「ああ、大丈夫、これよく外れるんだよね」ってもっといいやつ買えやー!
いちいちオーダーが来ると材料や器具をあちこちから出してはしまい、時にはアレは一体どこだ、右へどけ、左へ動けと叫び、なんだか無駄な動きが多い気もする。
自分の盛り付け担当料理が自然と決まってきたので、それに集中して忙しく立ち回るも、気分的にはずいぶん落ち着いてきて、淡々とこなせるようになってきた。一方、注文がどんどん入ってきて厨房内でのプレッシャーは逆にだんだん高まってくる。
スーシェフが「鴨、あと何分で出せる!サーモンは!」と叫び、C君が「あと3分!」と叫び返す。
気がつくとT君が後ろでブツブツFワードを言いながら、ガンガン台を蹴っている。おうおうどうしたと思えば、「ファックミー!ファックミー!」と自分に悪態をついているw
C君はといえば、下っ端のS君の両肩に手を置いて、「おい、俺を見ろ、俺を見ろ。いいか、落ち着くんだ」と、ボクシングのセコンドがボクサーに言い聞かせるように何か説教しているが、肝心のS君のほうはブツブツ口答えしつつも、表情は彼のほうが随分落ち着き払っている。逆にC君が何をそんなにストレスアウトしているのか、良くわからない。
この厨房にいるシェフ全員、多分みんな私より年下。ちょっとストレスアウトすると、とっても簡単にお口からFワードが飛び出してくる。でもアラフォーにもなると、色々なことに驚かなくなるのか、そこまでわーきゃー言わなくても、大丈夫じゃね?などと逆に思ってしまうww
自然とアミュゼ係になった私、お客さんにアミュゼが出されると、スーシェフが立ってる横の壁に張ってあるお客の予約リストと照らし合わせて、アミュゼ済みの印をつけていく。
印を付けるのにボールペン誰か持ってないのと叫ぶとT君がポケットからペンを5−6本ぞろぞろと出してきて1本貸してくれた。そこへC君が「なんでそんなにペン持ってるんだよお前〜」と茶々を入れ始めたところでスーシェフが雷一撃。「Stop chatting like fucking school girls! さっさと仕事にもどりやがれっ!!」あー怒られてやんの!私心の中で大爆笑ww
こんな感じでランチタイムのサービスは進んでいく。
私がさっき座ってまかないを食べたChef's Tableにも予約が入っていて、お客さんがキッチンの様子を見ながらランチしている。カナッペセクションは彼らからはよく見えない場所にあるのだけれど、いかにも素人然の私がキッチンからひょっこり出てきたのを見て(ジーンズにエプロン姿だしw)、ちょっとビックリした顔をしていたw
それにしてもこんなにプレッシャーいっぱいで忙しい厨房に素人を入れたり、それをお客さんに見せるテーブルを作ったりして、シェフには迷惑じゃないのかなぁと最初はちょっと思ったが、どうしてどうして、何となく彼らはそういうオーディエンスがあるのをちょっと楽しんでいる感じもする。
時間との闘いでもあるけれど、そんな中で働くとなんだか変なアドレナリンが出てちょっとハイになる。そして忙しく立ち回る厨房はある意味彼ら舞台。観客の目があろうとも、口の悪いのも止まらないw
それにしても、お客、一体何時までランチしてるんだ!注文がなかなか止まらない。でも3時が過ぎた頃、ようやくメインの厨房も静かになり始めて、一段落。やれやれ。
・・・と思ったら「終わったの?」とまたペイストリーセクションに連れて行かれた・・・えぇー、まだ終わんないのw
・・続く!!!!
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